関節治療の専門医に聞いてみました!

第120回 -日常生活への影響-

ドクター
プロフィール
医学博士。北海道大学医学部卒業。
市立札幌病院整形外科、北大病院整形外科医局、釧路労災病院整形外科、国立弟子屈病院整形外科、北大病院整形外科、苫小牧市立総合病院整形外科医長などを経て、現在に至る。
日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、北海道股関節研究会幹事など。
エリア 北海道タグ
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ドクター写真

「痛みをなくしたい」「元気に歩きたい」-。そんな願いを込めて人工股関節置換術を受けたいと 思っていても、手術後の日常生活にどのような影響が出るのか、不安を感じている方は少なくな いのではないでしょうか。 そこで今回は、人工股関節置換術後にできるようになることや、人工股関節を長持ちさせるために日常生活で注意したいことを整形外科の先生に教えていただきました。

※今回お話を伺った長谷川功先生は人工股関節置換術では、股関節のうしろ(お尻の方)から手術を行う「後方アプローチ」を採用されています。手術の方法や個人の状態によって手術後の注意点が異なる場合があります。この記事の内容がすべての方にあてはまるわけではないことを、予めご了承ください。具体的な注意点については担当医の指示に従ってください。

人工股関節置換術を受ける前と後とではどのような変化がありますか?

人工股関節になると痛みがとても楽になる

人工股関節置換術を受ける患者さんの多くは、「変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)」や「大腿骨骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)」、「関節リウマチ」などの病気が原因で、股関節の互いにこすれ合いながら動く面が傷んでしまうために痛みを起こします。

股関節に痛みがあると、歩いたり、動いたりすることが難しくなり、動かないでいると筋力が衰えて身体を支えることもできなくなってしまいます。傷んでしまった股関節を人工股関節に置き換えると、股関節がスムーズに動くようになるため、痛みがとても楽になります。

痛みが楽になると、どのようなことができるようになりますか?

普通の生活が送れ、軽いスポーツもできるようになる

買い物写真
夫婦写真
ゴルフ写真

痛みが楽になると、足腰をスムーズに動かせるようになり、身体をしっかりと支えることもできるようになります。人工股関節を長持ちさせるために避けたい動作はありますが、概ね普通の生活が送れるようになると思っていいでしょう。買い物や家事、車の運転、坂道や階段の上り下り、旅行なども普通にできるようになると思います。むしろできないことを数えた方が早いくらいです。MRI 検査も問題なく受けられます(ただし、股関節のMRI では画像が乱れます)。

スポーツも水泳やウォーキング、ゴルフ、ヨガ(一部の姿勢を除く)、太極拳といったゆっくりとした動きの運動はおすすめできます。

登山やエアロビクスといった股関節に大きな力のかかるスポーツや、サッカーやバスケットボールのように身体同士がぶつかり、予期しない力が急激にかかるようなスポーツは避けたほうがいいでしょう。いくらそのスポーツに慣れていてそのための筋肉がついていても、人工股関節への負荷を筋肉でコントロールすることは残念ながらできません。
スポーツに関しては、そのスポーツをすることが生き甲斐というほど大切なものなら、それを無理に制限することはできませんが、ただ、人工股関節にしたことをきっかけに一度考えてみていただきたい。それは、人工股関節にしなくても、年齢を重ねるほどゆっくりとした動作の運動のほうが身体への負担が少なく、健康のためには向いているということです。ご自分の年齢に合った運動は何かを手術を機会に考えてみることも必要だと思います。

お勧めの運動 避けたい運動

人工股関節置換術を受けると必ずよくなるのでしょうか?

ほとんどのケースで症状の改善が期待できる安定した手術

正しい診断が行われて、ある一定以上の技量を持ったドクターの手術を受けることができれば、ほとんどのケースで痛みが楽になり、普通に日常生活が送れるようになると考えて差し支えないと思います。100%必ずよくなりますよと言えないのは、ごく稀ですが、1000 人中3 人くらいの割合で手術中やその直後(入院中)などに感染症を起すことがあるからです(*)。また、これもまたごく稀に、手術後も痛みが改善しないケースもあります。

その他に、手術を受ける前に長期間、極端に動きが悪かった場合の可動域の改善や、麻痺(まひ)などがあって身体を支えるのが難しいという方の場合には、その原因が股関節の痛み以外にあるので、人工股関節置換術を受けても回復が難しいことがあります。ただし、そのような方でも痛みを楽にするということは十分に可能です。

ただ私の経験では、リウマチの患者さんで10 年くらい車椅子で生活をされていた方が、リウマチの治療法が著しく向上したこともあって、人工股関節置換術を受けたら歩けるようになったという方がいます。手術を受けてよくなるのかどうかをひとりで悩んだり、判断せずに、専門医に相談して何でも遠慮なく聞いてみてください。

人工股関節置換術後に気をつけたほうがいいことはありますか?

脱臼と感染症に注意が必要

脱臼と感染症に気をつけてください。まず脱臼については、人工股関節ならではの理由があります。そもそも股関節は骨盤と大腿骨(太もも)骨頭という部分がおわんとボールのような組み合わせでかみ合わさっています。本来の自分の股関節のかみ合わせの深さよりも、人工股関節のかみ合わせのほうがやや浅い構造になっているため、動作によってはどうしても脱臼しやすくなります。

さらに股関節は「関節包」という強力な袋でカバー(補強)されていますが、人工股関節に置き換える際にこの関節包を取り除くことが多いため、手術後、関節包が自然に再生するまでの数ヵ月間(3 ヵ月程度)は、支えがなくなるために脱臼しやすくなります。一般的な報告ではこの時期の脱臼はだいたい100 人中2~3人で起こるといわれていますが、気をつけて注意点を守っていればほとんどは避けることができると思います。

股関節と人工股関節の図

どんな動作をすると脱臼しやすくなりますか?

しゃがむ、高いステップを上るなどの「屈曲・内旋(くっきょく・ないせん)」の動作には注意が必要

術式によって多少違いますが、股関節のうしろ(お尻の方)から施術する後方アプローチという術式の場合は、足を曲げた状態(屈曲)で内側に向ける動き(内旋)をすると特に脱臼しやすくなります。例えば、「体育座り」や「横座り」、「高いステップを上る」、「足を組む」といった動作は脱臼しやすいので避けたほうがいいでしょう。病院のリハビリでも、安全な動作ができるよう練習をしますし、気をつけてさえいれば、毎日の生活での動作は習慣的にできるようになります。ただ、外出先で和式トイレを使ったり、普段使わないものを低いところや高いところから出し入れしたりといった、あまり日常的でない場面ほど、つい無意識のうちに危険な姿勢をとってしまいがちなので、特に注意してほしいですね。 また、よく質問されますが、あぐらは股関節を開いた姿勢になり、関節がしっかりとはまりこむので安全です。正座も問題なくできます。

危険な姿勢安全な姿勢の例

手術の方法や個人の状態によって手術後の注意点が異なる場合があります。この記事の内容がすべての方にあてはまるわけではないことを、予めご了承ください。具体的な注意点については担当医の指示に従ってください。

手術後、どのくらいの期間脱臼に注意したほうがいいのでしょうか?

日常的に注意は必要だが、普通に歩くことも大切

股関節をカバーする関節包が自然に再生するのに3 ヵ月くらいかかりますので、その間は特に注意が必要です。ただし、再生した関節包は人によって強度が違いますので、脱臼しやすい動作を避けることは手術後3 ヵ月以上経った後も、日常的に継続して守ったほうがいいでしょう。

とは言うものの、せっかく痛みが楽になって普通に歩け、日常生活も支障なく送れるようになったのに、(人工股関節を)長持ちさせたいからといって家の中でじっとしていたり、車椅子に乗っていたりするのは本末転倒です。人間は股関節だけで生きているわけではありませんから、股関節だけを大事にしていても仕方ありません。健康的に生きていくためには普通に歩いて、軽い運動もしてほしい。じっとして動かないでいると、骨が弱って、食欲もなくなって、気分も滅入ってしまい、いい事なんか何もないと思います。ご自分と同年代の健康な方が当たり前にやっているようなことを目安にして、活動的な毎日を送ってください。

感染症については、どのような注意が必要でしょうか?

感染症はごく稀だが、虫歯や歯周病は早めに治療したほうがいい

股関節が人工のものに置き換えられると、細菌などと戦う白血球やリンパ球などが届きにくくなるため、感染症が起こりやすくなります。感染症は手術中や直後の入院中に特に起こりやすいのですが、確率としては1000 人中3 人くらいでごく稀です(*)。

また、発生頻度は極めて低いものの、無いとは言えないのが、手術後半年以上、場合によっては何年も経ってから起きる遅発性(ちはつせい)の感染症です。原因としては膀胱炎(ぼうこうえん)や腎盂腎炎(じんうじんえん)といった尿路系の感染経路があげられますが、注意を怠りがちなのが虫歯や歯周病です。虫歯や歯周病などの口内の細菌が人工股関節の周りで感染症を引き起こす原因と特定するのは非常に難しいため確証はまだありませんが、可能性としては大いに考えられます。ただ、虫歯や歯周病は健康のためにはどのみち早く治したほうがいいわけですから、人工股関節にした後は、気づいたら早めに治療するようにしてください。

人工股関節も長い期間使っていると交換(再置換)が必要になるのですか?

10 年以内で20 人に1 人、20 年以内で10 人に2 ~3 人の割合で再置換が必要

何年か経ったら全員の方に必ず再置換が必要になるというわけではありません。可能性としては10 年以内に再置換が必要になる方は20 人に1人くらい。20 年以内でみると10人に2 人か3 人というのが一般的な報告です(*)。ただし、これは10 年、20 年前に手術を受けた方の結果ですから、今は当時より人工股関節そのものも進化していますので、今後はもっとよい結果になっていく可能性はありますね。

再置換は、基本的に土台となる骨さえしっかりしていれば、特に何の問題もなく行えます。しかし、再置換術が必要となるケースで多くみられる、人工股関節がゆるんでしまっている場合は、土台となる骨が破壊されていることが多いので、破壊の度合いが大きいほど再置換術の難易度も上がります。

こうしたことを防ぐためにも、術後の定期検診は欠かさずに受けていただきたい。最低でも一年に一回はレントゲン検査を受けておくと、骨の状態も確認でき、大変なことになる前に対処することができます。再置換が必要になる方は太ももや股関節のあたりがだるくなったり、痛みを感じたりすることがありますが、特に自覚症状がなく、すたすた歩けていても人工股関節のゆるみが始まっていて再置換したほうがいい場合があります。自己判断せずに必ず定期的に担当医に診てもらってください。

脱臼、感染症を防ぐほかに人工股関節を長持ちさせる秘訣がありましたら、教えてください

太り過ぎないこと、洋式の生活に変えましょう

人工股関節を長持ちさせるには、一つは太り過ぎないことです。自分の体重というのは、股関節だけでなくひざや腰にも思いのほか負担をかけています。同じ身長で体重が50kgの人と70kg の人とでは、70kg の人は20kg ものリュックを背負っているのと同じですからね。股関節の身になって考えたら、大変でしょう?

その負担は軽くしたほうがいい。理想はBMI(肥満度判定の体格指数)22以下、少なくとも25以下くらいにするべきです。

それから、生活スタイルはなるべくイスやベッドを使う洋式に変えていったほうがいいと思います。イスやベッドの生活のほうが人工股関節への負担が軽くなるということはもちろんありますが、健康な人でも年齢を重ねると布団を上げ下げしたり、畳から立ち上がったりすることが大変になってきます。いずれはみんなそうなっていくのですから、手術をきっかけに、今のうちから洋式に変えていくといいのではないでしょうか。

人工股関節置換術を受けることを迷っておられる方に向けて、アドバイスをお願いいたします

痛みに耐え続けていることで状況が悪化することも。早めに専門医を受診しましょう

歩行や生活に支障が出ているのに痛みをがまんし続けていると、状況はどんどん悪くなっていきます。人工股関節の土台である骨がしっかりしているうちに手術ができると長持ちし、手術自体が軽いものですむことがほとんどです。痛みによって歩くことや日々の生活に支障が出てきたら、そのときが人工股関節置換術を受けるタイミングだと思って、専門医に相談してみてください。痛みが楽になることで、日常生活だけでなくいろいろなことがいい方向に向かっていくと思いますよ。

※参考資料 「変形性股関節症 診療ガイドライン」 南江堂

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