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専門医インタビュー

よくある肘の病気やケガ~ダイジェスト版! 肘の痛みの原因とその治療法

  • 稲垣 克記 先生
  • 昭和大学病院 客員教授
  • 03-3784-8000

東京都

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日本整形外科学会整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本リウマチ学会リウマチ専門医、日本手の外科学会専門医、日本肘関節学会評議員難病指定医、臨床研修指導医

この記事の目次

肘の病気やケガについての情報は、一般にはあまり浸透していないようです。何が原因で肘に痛みが生じたり、故障や病気が起こったりするのでしょうか。また最新の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。そこで今回は、肘関節の専門医である昭和大学病院の稲垣先生にお話を伺いました。

肘関節のしくみと病気やケガについて教えてください。

まず肘関節の構造からお話ししましょう。肘関節は、上腕骨(肩から肘までの骨)の末端と2本の前腕骨(肘から手首までの骨)の合計3本の骨が組合わさるような構造で機能しています。前腕骨の2本とは、「橈骨(とうこつ)」と「尺骨(しゃっこつ)」です。そして肘関節の周りにある軟骨や筋肉、腱にサポートされながら安定性を保っています

上腕骨顆上骨折とは?

幼稚園児や小学校低学年の子どもに多いケガの筆頭は、「上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)」です。
鉄棒やうんていなどから落ちた時に手をついて肘が腫れているとしたら、この骨折である確率が高いです。軽度の場合はギプスで固定したり、ベッドに寝かせて腕を吊り下げる牽引療法を行うこともありますが、最近はその日のうちに手術することが増えました。というのも、骨折すると、骨と骨の間に血管や神経が挟み込まれ、血管が傷ついたり(フォルクマン拘縮)、神経が麻痺するなどの重篤な合併症の恐れがあるからです。それによって血が通わず筋肉が成長しないと腕が短く成長したり、ずれた骨が正常に発育しないために肘を伸ばした状態でも内側に湾曲する「内反肘(ないはんちゅう)」変形が起こります。

10年ほど前までは「曲がったままでも成長するうちに自然と治るだろう」と考えられていましたが、矯正される場合は稀で、現在では合併症を防ぐために早急に手術を行うケースが増えています。

野球肘とは?

小学校高学年、中学生で野球をしている生徒は、「野球肘」になりやすいです。これはピッチャーに多くみられる症状です。成長途中で骨端周辺の骨や軟骨が未熟であるにもかかわらず、過度に投球を繰り返すことによって、肘関節を保護している軟部組織の軟骨や靭帯、筋肉、腱が損傷するのです。医学的には、「上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)」と呼ばれます。成長が完了した投球歴の長い選手でも、骨軟骨や筋腱付着部などの軟部組織に障害が起こります。繰り返される投球動作によって、肘の内側にある靭帯組織が劣化して、伸びたゴムのようになるのです。

テニス肘とは?

「テニス肘」は、テニスなどのラケットを使用したスポーツを行う人に多くみられるスポーツ障害です。医学的には、「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」「上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)」と呼ばれます。無理に手首と肘の力を使うことで、筋や腱の変性や骨膜の炎症が引き起こされるのです。この変性は、加齢によっても起こります。さらに、包丁を握る、ゴルフでクラブを握るなど、手を握る動作を繰り返したり、五十肩を患った後にテニス肘になる場合もあります。その多くは、手首を曲げたりひねる動作のときに肘や前腕に痛みを感じます。そして、タオルを絞る、ドアノブをひねるとか、ペットボトルのキャップをひねるなどの日常動作がむずかしくなります。

日常生活の注意点としては、手のひらを下にしてモノを持って動かすことはできるだけしないこと。手のひらを上に向けて持つのはかまいません。手のひらを下(地面)に向けるような回内位の持ち方は肘に負担がかかりますので避けてください。

関節リウマチとは?

青年期、特に30代以降の女性に多く見られるのは、「関節リウマチ」です。関節リウマチは、手の指や肘から発症することが多く、最初は、「朝起きたときに手や指がこわばって握りにくい」「肘の曲げ伸ばしがスムーズにできない」という症状がみられます。遺伝的要因、環境因子など原因はいろいろ考えられますが、はっきりとは断定できません。

関節リウマチを発症される方は圧倒的に女性が多く、血液検査で「抗CCP抗体」を計るとすぐに診断はつきます。抗リウマチ薬、生物学的製剤、副腎皮質ステロイド剤などの薬物療法をし、炎症が治まって痛みがとれてもスムーズに動かせない、変形が治らない、といった患者さんが整形外科を受診することが多いです。レントゲンを撮ると、高齢者の場合は骨の変形が進み、すでに骨欠損しているケースもありますので、関節リウマチと診断されたら内科だけでなく、早めに整形外科も受診していただきたいですね。国の指導でも治療には「薬物療法」、「リハビリテーション」、「手術療法」、「日常生活」と4本の柱があります。レントゲンを撮って関節の変形などが確認されたら、薬だけで治療するのではなくリハビリも並行して行うことが運動機能の回復にはとても大切です。

変形性肘関節症とは?

「変形性肘関節症(へんけいせいひじかんせつしょう)」は60代の男性、おもに肘をよく使うスポーツや重労働をしていた男性に多くみられます。痛みや肘関節の可動制限で口に手が届かない、髪を洗えないなど、日常生活のなかで肘を曲げたり伸ばしたりするのが困難になって気づくことが多いようです。通常は肘の軟骨が関節面を覆っていて、肘にかかる衝撃をやわらげてくれるのですが、その軟骨がすり減ると骨と骨がぶつかり、骨棘(こつきょく)というトゲができて神経に当たるため、肘をギュッと曲げると痛みを覚えます。

肘が痛い!となったら、まず何をすればよいのでしょうか?日常生活の注意点は?

もっとも大切なのは、正確な診断。整形外科を受診し、レントゲンを撮って痛みの原因を突き止めることが先決です。まずはともあれレントゲン。そして受診の際にはメモを用意してください。なぜ痛くなったのか?痛み止めは効くか?おすすめは受診の際にメモを用意しておくことです。病院で白衣のドクターを見た途端、言いたいことを忘れてしまう患者さんは意外と多いものですから。

<病院を受診する前にメモを用意しましょう>

  • いつから痛い?
  • 痛くなった原因は?(「ちょっとひねった」など思い当たることがあるか)
  • 何をすると痛い?
    • カクンとひっかかる感じがあるか
    • 使い始めが痛い?使い始めは痛くないが、使っているとだんだん痛くなる?
    • 動かさなければ痛くないが、肘をギュッと曲げると痛い?
    • 安静にしていても、夜寝ていても痛い?
  • 痛み止めは効く?
  • 病歴は?

ちなみに通常は患部を温めたほうがよいことが多いですが、寝ているときに痛いというのは炎症を起こしている可能性がありますから、その場合は冷やしたほうがよいでしょう。しかし自己診断せずに、肘に痛みや違和感があれば、まずはかかりつけの整形外科医に相談してください。

変形性肘関節症の治療法について教えてください。

変形の少ない場合に行う保存的治療としては、肘をできるだけ動かさないように安静にするのが基本です。ほかには消炎鎮痛剤を使ったり、患部を温めたりします。手術は肘の痛みが強く、骨の変形が進んで日常生活に支障がある場合に行います。骨と骨がぶつかってできる骨棘や、関節からはがれ、動きまわっている骨のカケラなどを、関節鏡を用いて取り除く手術が一般的です。ごく稀に傷んでいる部分を金属やプラスチックなどの人工関節に置き換える「人工肘関節置換術」を行うことで痛みが緩和し、関節機能の大きな改善が得られる場合があります。

高齢者の肘の骨折の治療法について教えてください。

肘関節の粉砕骨折をした際は、機能回復のために人工関節置換術を行う場合が多いです。特に骨粗しょう症の高齢者だと、転倒によって関節に近いところが折れやすくなります。プレートで骨折部分を固定する手術方法もありますが、通常は手術に3時間ほどかかり、リハビリにも1年ほどかかります。完治するまで活動が制限されるその間に、高齢者の方だと認知症が進むおそれもあります。一方、人工関節の手術は1時間程度ですみ、半年、1年後をみても患者さんの負担が軽いです。人工関節の手術後は1週間ほど関節が動かないよう固定しますが、その後は日常生活で自然に使って動かしていくこと自体がリハビリとなり、わざわざリハビリのために病院に通うこともありません。というわけで、特に骨のもろい70歳~80歳以上の高齢者にとっての人工関節置換術には、大きなメリットがあるといえるのです。

人工肘関節はどのくらいもつのでしょうか?

人工肘関節は金属でできた上腕骨側と尺骨側のコンポーネント(構成品)で構成されています。尺骨側の関節面はプラスチックで覆われています。このコンポーネントがスムーズに動くことで、肘関節の機能を再現します。人工肘関節には上腕骨側と尺骨側が連結しているタイプと、分かれている表面置換型(非連結タイプ)の2通りがあります。いずれも耐用年数は15~20年ほどといわれています。

連結タイプのほうが脱臼の心配がなく、骨にもセメントでしっかりと固着させるのでより安心に思えますが、耐用年数を超えて再置換の手術をするとなると、骨の組織がコンポーネントと密着しているので、取り外すことが大変です。まだ40代などの若い人で将来的に再置換の必要が考えられるなら、連結部分だけ取り替えればよい表面置換型(非連結タイプ)のほうが侵襲が少なく(骨切除の量が少なく)、利点があります。一方ご高齢の方は、連結タイプが適しているかもしれません。医師は、年齢と基礎疾患、変形の具合、手術前の動きを見て、総合的に判断し、どちらにするかを決めます。

人工肘関節置換術の入院から退院までの流れが知りたいです。

手術が決まったら、全身状態の検査を行い、家庭でできる運動をします。退院後の自宅での暮らしを考えて、動きやすいように生活環境を整えておくことも大切です。また、下肢の筋力と歩行能力(杖が必要か否か)の評価をしましょう。

入院期間は1〜2週間。術前に1〜2日、術後に1週間程度かかります。手術自体は1時間ほど。術後はギプスで1週間ほど固定して安静にし、ギプスをはずしたら夜だけ4週間ほど固定します。リハビリはそれ以降、ご自身で行っていただきます。術前に拘縮が強くて肘の伸びが悪い人は早めに伸ばすようにします。日常生活に戻るなかで患者さんに気をつけていただきたいのは、肘を伸ばしきらないということです。30度くらい曲がっている状態に留めてください。伸ばしきると人工関節の耐用年数に影響します。荷物を持つなら2kgまで。牛乳パック2個分です。それも手術したほうの腕で長時間持たないように時々持ち替えてください。外側にひねったり振り上げるような動作もしないことです。あとは日常生活を続けるうちに、自然と筋力はついてきますし、よくなっていきます。

退院後2カ月〜半年もすれば、家事や趣味の活動もできるようになるでしょう。何より痛みがなくなることに多くの方は驚き、喜ばれますね。人工関節を長持ちさせるためにも、最初の1年間は数回、2年目以降は年に1〜2回を目安に、医師の指示に従って受診するようにしましょう。

肘の痛みを抱えている方々に何かアドバイスはありますか?

肘の病気やケガは、年齢や性別に関わらず起こり得る疾患です。肘関節が正常に機能するから、腕を曲げたり伸ばしたり、手を握ったり、手首をひねったりすることができるのです。もし肘に痛みや違和感があれば、放置せずにその症状をできるだけ細かく書き出し、早めに整形外科を受診していただきたいですね。


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