専門医インタビュー
山形県
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農家が多く、田畑や果樹園でがんばる現役高齢者も多い山形県。そんなお土地柄を背景に、変形性膝関節症の治療に取り組んでいらっしゃるのが福島重宣先生です。現代の治療においては、「手術後もできるだけやりたいことができるように、と考えるのが基本」とおっしゃる福島先生。わずか数年の間にもさまざまに変化をとげている治療の現場について、最新事情をうかがいました。
この地域はもともと高齢者率が高いということもありますが、最近はとくに、80歳以上の方が手術を受けられるケースが増えてきています。
手術はどうしても体に負担がかかりますから、高齢になるほど合併症のリスクは上がります。しかし、最近の手術は体への負担が少ない、低侵襲なものになってきていますし、長時間じっとしていることによる血栓症についても、きちんと対策方法がありますので、80歳以上の方でも有効な手術だと私は考えています。
たしかにそういうケースは多いです。合併症リスクも理由の一つですが、痛い部分をかばって歩いている期間が長くなると、筋力が低下してしまい、手術後の回復に時間がかかってしまうんですね。また、手術後の関節の可動域(曲がる範囲)は、手術前の可動域に比例するので、症状が進み、可動域が狭くなってしまう前に手術をしたほうがよいともいえます。
多くの方は、手術が可能な病院にお越しになる前に、地元の診療所にかかっていらっしゃると思います。理想は、そこで定期的に診療を受けながら、必要に応じて手術を検討していただくこと。そのためには、診療所と病院がうまく連携していくことも大切だと思っています。
以前は、人工関節を長持ちさせるため、「走ってはダメ」「自転車はダメ」と手術後の活動に制限が多かったのは事実です。しかし、最近は考え方が変わり、学会などでも、「手術前にしていた程度の運動はしてもよい」とする考え方が一般的になっています。
この地域は果物栽培や稲作が盛んで、患者さんも農家の方が多いですが、手術後も農作業を続けていらっしゃる方は多いですよ。私たちとしては「どんどんがんばれ」とは言えませんが、無理のない程度に、できる範囲でやっていただいています。さくらんぼ農家の方などは、5mの脚立を上り下りされることもありますが、飛び降りるなどの無理をしなければ大丈夫ですし、しゃがむのは難しくても、地面に座ったり腰をかがめたり、いろいろな方法で農作業はできますからね。本格的な農作業は子供世代に譲り、楽しみとして家族のために野菜を作っているような方もいらっしゃいますが、そんな方に、手術をしたのだからやめなさいとは言えません。
同居のご家族がいれば車に乗せてもらって移動することもできますが、最近はここ山形でも独り暮らしの高齢者が増え、日常の足に自転車が欠かせないケースも増えました。そういう方には自転車にも乗ってもらっています。
何よりもまず、痛いと思ったら診察を受けていただきたいのですが、実は症状の程度によっては見つけづらいのが変形性膝関節症の難しいところ。レントゲンを撮っても異常が見つからないことも多いのです。撮り方を変えたり、MRIを使ったりすることで異常が見つかることもありますから、痛みが続く場合は、セカンドオピニオンとして他の病院で見てもらうのも一つの方法です。
また、実際には手術が決まっても、受けていただくまでにはずいぶんお待ちいただかなくてはならない場合もあると思います。適切な管理さえ行っていれば、手術を待つ間に悪化する心配はあまりありませんので、痛みを感じない程度のトレーニングで筋力と可動域を保ち、じっくりと計画的に準備を進めてまいりましょう。
人工関節の手術は怖い、というイメージをお持ちの方はまだまだいらっしゃるようです。もちろん、手術である以上100%安全だとはいえませんが、人工関節も手術の方法も進歩し、多くの方に安心して手術を受けていただけるようになっています。先日など、10年前に80歳で手術をされた方が病院に来て、「膝だけは今も全く痛くない!」と語ってくださいましたが、そういう言葉を聞くと私たちもうれしいですね。
私たち医師も、少しでも多くの方を痛みから解放し、やりたいことをかなえて差し上げたいと思っています。痛いと思ったらどうぞ積極的に専門医へ相談してみてください。
膝の痛みには、ヒアルロン酸、コンドロイチンやグルコサミンなどのサプリがありますね。実際、グルコサミンについては抗炎症作用が認められていて、服用することで痛みがラクになった方もいらっしゃいます。しかし、すり減った軟骨を「修復」するのは難しく、「若返り」の薬がないのと同じです。また、サプリメントの中には糖分が含まれるものもあり、糖尿の方などは注意が必要です。
実際には、サプリメント以外にも大切なことはたくさんあります。私がおすすめしているのは、ADL(アクティビティー・オブ・デイリーライフ)、つまり日常動作を適切にコントロールして、膝への負担を減らしつつ筋力をつけることです。たとえば、20分程度のゆっくりした散歩、それもつらければ、スキーのように両手に杖を持って歩くノルディック・ウォーキングもよいでしょう。運動を続けることでできるだけ症状の進行を食い止め、痛みが我慢できなくなれば手術も考える。これが治療の王道だと思います。
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