専門医インタビュー
変形性膝関節症。加齢とともに、膝に痛みを感じている人は、この病名を耳にしたことがありませんか?日本人の変形性膝関節症のX線診断による潜在的な患者数は、約3000万人とも言われています※1。高齢化社会により、患者数は増加の一途。女性に多い変形性膝関節症とはどんな病気なのか?その治療法とは? そして治療に大切なこととは?慶真整形外科の阿部智行先生にお話を伺っていきます。
※1 厚生労働省「平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会」より抜粋
膝の痛みに悩んでいる患者さんで、もっとも多いのが変形性膝関節症ですね。年齢の変化とともに膝関節の軟骨が変性劣化、つまりすり減って、クッション機能を失ってしまい痛みが生じます。
原因は、軟骨に悪い酵素が生まれ、軟骨そのものを壊したり、また変形性膝関節症になりやすい遺伝体質ということも考えられます。
ですが、この病気の発症には、力学的要因が強く関与しています。簡単に言い換えると、まず怪我、外傷。そして日本人に大変多いO脚、体重の増加など、患者さんの身体的特徴が影響することも多いですし、職業、スポーツ活動などが膝関節に与えるストレスなども原因のひとつに考えられるでしょうね。
こうしたものが加齢とともに、軟骨のすり減りを進行させる可能性があります。膝は筋肉や靱帯にも支えられていますから、老化や怪我でバランスが崩れると、軟骨のすり減りが進行してしまうのです。結果、骨膜炎を起こしたり、ひどい場合は、軟骨がなくなり骨がむき出しになってしまって、骨同士が当たりますので、強く痛みますね。
保存療法(手術以外の治療法)は、正座、横座りなどの姿勢をとらないといった一般的に日常生活の改善、ダイエット、筋力トレーニングといったリハビリなどから始まります。いずれもきちんと続ければ有効ですが、すでに痛みを感じている方々にとって筋力トレーニングは厳しいし、もともと食事量が多くない方々にダイエットといっても、なかなか難しいものですね。
そこで薬物療法です。主にヒアルロン酸やステロイドを関節に直接注射します。
だこうした療法は、痛みをある程度コントロールすることは可能ですが、病態の進行を止めることは難しく、軟骨は再生させられません。痛みが続くようであれば、専門医にかかってほしいですね。我慢を続けると、それだけ進行が進んでしまう恐れがあります。
生活上のひとつの指標として、近くのスーパーに出かけるのが大変になってきたら、手術を考えていてもいいかもしれません。そうした患者さんで、レントゲンやMRIなどで関節の破壊が明らかで、医師が正確に判断できれば、手術を勧める場合が多いです。いろいろな手術がありますが、現在広く行われている人工膝関節置換術を最終的に選択することが多くなってきています。
すり減った軟骨と傷んだ骨の部分を切除して、金属とポリエチレンなどでできた人工関節に置き換えます。痛みの軽減に関して非常に優秀な手術です。また脚の軸を矯正でき、まっすぐにしてくれるという効果も期待できます。それに伴って歩行能力の改善も見込めます。施設によって差はありますが、手術自体は1~2時間で終わり、手術した日、または翌日からリハビリを開始する場合が多いです。患者さんの症状にもよりますが、一般的には退院まで3週間から4週間くらい。杖なし、または杖1本で歩いて帰ってもらえますね。
また、人工関節は10年以上たっても10人中9人以上の方が入れ直すことなく使用されている安定した手術です。
人工関節のゆるみです。骨と人工関節との間のゆるみ、人工関節自体が破損されてしまう問題。ただその耐久性はかなりあがってきています。またどんな手術にも合併症があるのはやむを得ませんが、感染の恐れがあります。1~2%くらいでしょうか。骨髄炎をおこし、人工関節を入れ直す場合があります。そして血栓症。足の静脈に血栓ができて、足のむくみや痛みを起してしまうものや、肺の血管が詰まってしまうものもありますが、この10年ほどは多くの病院で予防策が講じられています。私は自分の母親が、実際に膝が悪いのですが、人工膝関節置換術は、まず勧められる手術のひとつだと考えています。
何よりも大切なのは患者さんご本人の歩きたいという意欲です。温泉に行きたい、孫と一緒に遊びに行きたい、その意欲が力になります。人工膝関節を入れた後に、バドミントンをやっている60代の女性がいます。百段以上ある階段を両膝とも人工膝関節の80代の方が上ったエピソードもあります。いずれも医師としてはあまり勧められませんが(笑)。
手術というのはさまざまなリスクがあります。しかし、歩きたいという意欲があれば、手術は十分に意義のある治療法だと思いますよ。
数年前と比べて歩くのがつらそう。外に出たがらない。など、ご本人よりもご家族が気づいてあげられることも多いです。患者さんの変化を把握し、客観的な言葉を添えてあげることも必要でしょう。積極的にリハビリに付き添うなど、ご家族の協力があると手術後の経過も良いですよ。
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