専門医インタビュー
奈良県
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桜が満開を迎えた平成23 年4月9日、奈良県北葛城郡の「王寺町地域交流センター」で「市民公開講座 ひざの健康講座」が開催されました。香芝旭ヶ丘病院副院長の藤井唯誌先生によるユーモアを交えた分かりやすい講演に、ほぼ満員の245 名の受講者が詰め掛けた会場は終始和やかな雰囲気に包まれ、盛況のうちに終わりました。この講座より、患者さんから多く寄せられるひざの痛みに関する悩みや最新治療法、人工膝関節手術の術後の生活についてご紹介します。
ひざの痛みで多いのは「変形性膝関節症」です。ひざの軟骨がすり減って骨同士がぶつかって痛み、骨の形まで変わってしまう病気で、レントゲンを撮ると足の骨がO脚になっていることが多いです。変形性膝関節症のO脚は見た目でもわかります。気をつけの姿勢で立ってひざとひざの間がどのくらい開いているかですね。
「それならテレビで見て知ってるわ。私は(ひざとひざの間が)空いてないから大丈夫」という方もいると思いますが、注意が必要なのは太っている方です。骨はO脚になっているのに、足のお肉がそれをごまかしてしまっていて、自分ではO脚に気がつかないことも多いんです。だからひざが痛いなと思ったら、レントゲンを撮ってもらってください。
変形性膝関節症が原因でひざが痛い場合は、進行を遅らせるための運動療法があります。また、状態によって治療法もいくつかあります。
それから、関節に炎症が起こる「関節リウマチ」や「骨壊死」が原因でひざが痛くなることもありますし、腰が悪くてひざが痛むこともあります。一度専門医の診察をきちんと受け、正しいアドバイスを受けることはとても大切だと思います。
変形性膝関節症になったからといって必ず人工関節にしたほうがいいとは限りません。
骨の減りが少しだけという軽い方もいれば、完全に軟骨がなくなってしまって、骨まで変形してしまっている重症の方もいます。同じようにひざが悪いといっても状態はさまざまですから、私はそれぞれの状態に合わせた治療を行うべきだと考えています。
状態が悪く、よくなる見込みもなく、人工膝関節にしたほうが元気に歩けて人生の質が良くなるという方は手術を考えてみてもいいと思います。症状が軽い方は別の治療法を試して、進行を遅くすることを目指してもいいのではないかと思います。
変形性膝関節症の場合は、状態が軽い方でも重い方でも、適度な運動を続けることはとても大切です。ひざの軟骨は年齢を重ねるほど減っていきますが、歩かないでいるともっと減っていくと思ってください。
おすすめしたいのは「大腿四頭筋訓練」といって医学会で広く認められている変形性膝関節症の運動療法です。ひざ関節がこれ以上悪くならないように維持するためにも大切で、変形性膝関節症がまだ軽度の方にも、重度の方や人工膝関節術を受けられた方にも行ってほしい運動です。
この大腿四頭筋訓練を左右交互に10 回ずつ、一日に朝と晩で最低2 回、できれば朝昼晩の3 回続けてみてください。歯磨きと同じです。旅行に行ってもカゼをひいても歯磨きは欠かさずにするでしょう? 大腿四頭筋訓練も歯磨きの習慣のように欠かさずに続けることが大切です。
大腿四頭筋訓練ではよくならなかったとき、中等度くらいの悪さのときには、痛み止めの飲み薬を飲んだり、湿布を貼ったり、注射をします。
◆飲み薬
まず飲み薬は「消炎鎮痛剤」という薬です。よく患者さんで「痛み止めを飲んでいれば痛いのがおさまるし、手術より安全だわ」とおっしゃる方がいますが、これは誤解です。飲み薬は全身にまわって効くものですから、消炎鎮痛剤をむやみに飲み続けると胃腸障害や腎臓障害を起こしたりすることがあるため、身体によくないといわれています。担当の医師の指示に従って適切に服用することが大切です。
◆湿布
湿布は、痛いところに貼って、皮膚から痛み止めの薬を吸収させます。温湿布と冷湿布とありますが、湿布は温めたり、冷やしたりするものではなくて、飲み薬のように全身ではなく、患部だけにできるだけ安全に薬を効かせようというものです。
◆注射
注射は、「ヒアルロン酸」というものをひざに注入します。ヒアルロン酸は関節を滑りやすくする、軟骨に栄養を与えるという目的で使います。それに加えて痛み止めの作用も少しあるといわれています。
ヒアルロン酸が効かない場合は、炎症を強力に抑える作用がある「ステロイド剤」を使うことがあります。ステロイド剤は痛みを抑える作用は強いものの、何回も使い続けていると副作用として軟骨がつぶれてしまったり、細菌やウイルスなどに感染しやすくなるといった恐れもあるので、必要最小限にしておいたほうがよい薬です。
なお、ヒアルロン酸はひざの軟骨がある程度残っている方に向いています。多少の痛み止め効果は期待できますが、軟骨がないところにいくら栄養を与えても意味がありません。種を埋めてない植木鉢にいくら水や肥料をあげても花は咲かないでしょう?それと一緒です。とにかくヒアルロン酸を注射すればいいということじゃなく、レントゲンで軟骨の状態を確認することが大切です。レントゲンは寝た状態で撮るより、立った状態で撮るほうがより正確に軟骨の厚さがわかります。
また、ひざにいいといわれているコンドロイチンなどのサプリメントは、薬と違って医学的に効果が確かめられたものではありませんから、そのことは承知しておいたほうがいいと思います。
変形性膝関節症が重度になってしまったときは、いくつか治療法があります。一つは、人工膝関節にするまでではないけれど、何をやっても痛みが治まらないときに「関節鏡検査」を行うことがあります。これはひざの関節に1cm くらいの小さな穴を開けて中を覗いてみるという検査です。どういう状態になっているのかを目で直接確認して、悪くなっている場合はそのまま関節内をキレイにしてあげると、痛みが楽になることがあります。半月板が悪くなっている場合にはそのまま簡単な処置をすることもできます。
ただし、関節の中を見てみたら思いのほか悪くなっていて、この処置では痛みが楽にならないことがあります。関節鏡検査はあくまでも詳しく調べるためのものと考えていただいたほうがいいと思います。
それでもよくならず、痛みがあって生活に支障がある場合には、人工膝関節にするという選択肢があります。
人工膝関節置換術はほとんど場合、ひざ関節をそっくり人工のものに置き換える手術ですが、ひざ関節の状態によっては、関節の一部分だけを置き換える「単顆型」という手術があります。単顆型の場合は、傷口が小さくてすみ、手術後のリハビリもほとんどいらないといわれています。適応する方は限られますが、そのような手術もあります。
痛みががまんできるのなら、必ずしも人工膝関節にしなくてもいいと思います。ただ知っておいていただきたいのは、ひざに痛みがあるために満足に歩けないようだと全身の健康に影響が出てくることです。
例えば、ひざが痛くて動けない、動けないと太る、太るとひざに重みがかかってますます痛くなる、という悪循環が起こりやすくなります。肥満は万病の元というくらいだから、糖尿病や大腸がんなどの生活習慣病の恐れも出てきます。
肥満だけでなく、運動不足から起こる病気というのは実は非常に多いんですよ。歩くということは健康にとってとても大切なことですから、手術が怖い方はがんばって歩いていただきたいと思います。人工膝関節にすることでもっと歩けるようになりたいという方のために手術という選択肢があると思ってください。
2009 年の調査では、日本全国で1年間に7万人近い方が新たに人工膝関節にしています。(別頁にリンク:リンク先欄外参照)。膝の変形が強い末期のO脚の方でも受けることができ、人工膝関節に換えるとまっすぐな足に近づきます。初めて人工膝関節が登場したのは1958 年です。ご存知のインスタントラーメンと同じ年に生まれましたから、歴史があります。インスタントラーメンもいまはいろんな味があっておいしくなってるでしょう? 人工膝関節も素材、デザイン、形が進化して、手術も進歩しています。昔の人工膝関節に比べると格段によくなっていると思います。
患者さんの中には手術の後、海外旅行へ行ったり、軽いスポーツ(ゴルフや水泳、卓球、ウォーキングなど)、畑仕事、買い物などを楽しんでおられる方が大勢いらっしゃいます。柔道とかラグビーとか身体がぶつかるような運動は避けてほしいですが、旅行はどんどんおすすめします。費用は自己負担ですけど(笑)。
自転車も乗れるようなら乗ってもらってかまいません。人工膝関節にして自転車に乗っておられる方もたくさんいます。ただし、転ばないことです。「もしかしたら転ぶかもしれない…」と思ったら、自転車はやめて歩いてください。自動車の運転も問題ありませんが、事故を起こしたときのことを考えると、十分に自信がついてからのほうがいいと思います。
ひざの状態がどの程度のときに手術を受けたかによって、手術後の回復度合いに差が出てくることはあります。同じ人工膝関節手術を受けても、かなり悪くなってから受けた患者さんの中には、半年間くらい立ち上がるときにひざが安定しなかったり、歩くときにふらつく方もいます。逆に、それほど悪くならない状態で手術された方は、すっと立って、さっと座れる。一体どこが悪かったの?と聞きたくなるくらいよくなる方もおられます。それに、ひざだけでなく股関節も悪かったなど、全身の状態も関係してきますから、個人個人で差が出てくることはあると思います。
それから、患者さんの中には「思い切って人工関節の手術してもらったけど、しっくりきぃへんわ。失敗ちゃうの?」と不安顔でおっしゃる方もいますが、人工膝関節は人間の身体にとっては「異物」ですから、自分の身体になじむまでにどうしても時間がかかります。その間に腫れたり、痛みを感じたりする方もいます。痛みの取れ方は線香花火みたいだとおっしゃる患者さんもおられますね。最初は痛みがひんぱんにあるけれど、徐々に少なくなり、いつか消えるという感じでしょうか。手術後、半年から一年かけてあせらず、ゆっくり治していくというように考えていただきたいと思います。
※手術後の経過や回復力などは患者さんの症状や年齢などによって個人差があります。
ひざが悪い方は本当にたくさんいらっしゃいます。私自身子どもの頃にひざが悪く、8時間以上におよぶ大手術を受けました。ですから、ひざの痛みがどんなに辛いものか、よく分かっているつもりです。痛いのをがまんしている方もたくさんいらっしゃると思いますが、いまはいろいろな治療法がありますから、とにかく一度専門医に相談されることをおすすめします。
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