専門医インタビュー
宮城県
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50歳以上の女性の4人に1人、男性の6人に1人が、程度の差こそあれ何らかの膝の痛みを感じているといわれています。膝のトラブルによる歩行困難は、ロコモティブシンドロームの大きな誘因です。「健康寿命を延ばすためにも、変形性膝関節症を早めに見つけて、きちんと治療しておく必要がある」と語る、本間記念東北整形外科 院長の杉田健彦先生にお話を伺いました。
今、日本の国策として、健康寿命を伸ばそうという取り組みが始まっています。健康寿命とは、健康で人の手を借りずに、介護を受けることなく日常生活を送ることができる期間のことを指します。健康寿命が損なわれると、生活の質(QOL:quality
of
life)が落ちて、本人にとって不利になるだけでなく、支える家族の負担も大きくなり、国としては介護・医療費の増加に繋がります。このような事態を抑制するためにも、健康寿命をできるだけ延ばそうという取り組みが広がっています。
最近の10年間で、男女ともに平均寿命も健康寿命も延びていますが、実際は、健康寿命は平均寿命の延びに追いついておらず、要介護の期間が延びているというのが現状です。統計によると、介護が必要な期間は男性9.2年、女性は12.8年(平成22年)となっています。健康寿命とは、2000年にWHO(世界保健機構)が示した考え方です。日本でも、厚労省の国民の健康指針「健康日本21」の改訂版(2013年)には、国が掲げる大きな目標として「健康寿命の延伸」がうたわれており、その中に2007年から日本整形外科学会が提唱してきたロコモティブシンドロームの認知向上がはっきり盛り込まれました。
しかし実際には、ロコモティブシンドロームの認知度は2012年で17.3%、2013年5月には26.6%と決して高くはありません。そこで2022年度までに80%にまで引き上げようという数値目標が示されています。
平均寿命と健康寿命の推移
要介護(健康寿命を損なう)となる主な原因
骨や関節、筋肉、神経などの運動機能を司る運動器が、加齢や病気によって衰えたために起こる障害を「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」といいます。歩くことが困難になり動きにくくなるために、生活の自立度が下がり、介護が必要になる状態を指します。ロコモティブシンドロームに陥る前に、早期に発見して予防、治療していこうというのが日本整形外科学会の提唱です。
要介護になり、健康寿命を損なう主な原因としては、脳卒中や心臓病などを考えがちですが、関節疾患や骨折など整形外科の扱う運動器に関わるものが21.5%(5人に1人)を占めています。ロコモティブシンドロームの要因となる運動器の三大疾患は、変形性膝関節症、変形性脊椎症、骨粗しょう症であり、いずれも加齢現象によって起こる疾患ですが、歩行困難を来し、要介護状態に陥りやすいのです。
宮城県は、東日本大震災で大きな被害を受けました。震災の後、かつて人工膝関節置換術を行った患者さん(83歳)が外来に見えて、「あの時、デパートで買い物をしていたけれど、電車もバスも動かないなかで3時間痛みなく歩いて帰れました。手術をしていて本当に良かった、助かりました」と話してくれました。それを聞いて、ほかの人はどうだったのか調べてみようと思い、震災前の5年間に私が人工膝関節置換術の手術を行った患者さんにアンケート調査を行いました。
180名から得られた回答の結果、震災時には、「津波が来る前に2階に逃げることができた」「素早く動けたので家具の下敷きにならずにすんだ」「8時間も歩いて帰宅した」「入院中だったが、4階の病室から1階まで痛みなく階段で避難できた」など、震災後も、「痛みもなく日用品や食料の買い出しに長時間並ぶことができた」「重いものを持って歩くことができた」「給水や風呂に並ぶことができた」「後片付けができた」「いざとなったら動けると思うと余震の中でも安心していられた」などの生の声を聞くことができました。
人工膝関節置換術の目的は、患者さんのQOL(生活の質)の向上です。今までは、「家事や仕事がスムーズにできるように」「買い物や旅行を楽しみましょう」などと話して手術を勧めていました。しかし、これからは、健康寿命を伸ばし、自立した老後を送ることが大事だからという説明も必要でしょう。さらに東日本大震災の経験から、また、特に日本は台風、洪水などの自然災害も頻繁に起こっていることを考えると、自力で避難できる、避難所で自立した生活を送るためにも、膝の痛みや変形の強い患者さんには、手術という方法もありますよ、という情報だけでもお話すべきだと強く思っています。また、これらは膝にかぎったことではなく、ロコモティブシンドローム全体の早期発見、治療の目的にもなってくると思います。
震災に関する杉田先生へのインタビューについては、こちらをご参照ください。
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