専門医インタビュー
滋賀県
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「肩が痛い」「腕が上がらない」といった症状に悩みながらも、「歳だから」とあきらめていませんか?我慢することで悪化したり、可動域制限が残ってしまうこともあるといいます。「肩の痛みの原因はさまざまで、治療法も異なります。正確に診断してもらい、ご自身の症状に適切な治療を適切なタイミングで受けることが大切です」とアドバイスする滋賀医科大学医学部附属病院の今井晋二先生にお話をうかがいました。
凍結肩
中高年に多く見られるのは、俗に五十肩と呼ばれる「凍結肩」ですね。五十肩は、夜間痛や挙上困難に伴う日常生活動作障害、例えば「上着の袖に手を通せない」「駐車券が取れない」「ドライヤーで髪の毛を乾かせない」「腕を身体の後ろに回せない」といった症状が、思い当たる原因もなく、急に起こるのが特徴的です。「五十肩は自然に治る」とよくいわれますが、実際、半年~1年で自然に症状が治まる例も少なくありません。ただし、長期にわたって痛みや可動域制限が続くと、後遺症として残ってしまうこともあるので、適切なタイミングで適切な治療を受けることが大切です。
五十肩は、激しい痛みが続く炎症期、痛みが軽減し可動域制限が強くなる拘縮期、症状が治まる寛解期(かんかいき)に大別されます。炎症期には無理に動かさず、消炎鎮痛剤の服薬や、ステロイド剤やヒアルロン酸の関節内注射で炎症を抑えます。拘縮期には、将来的に可動域制限を残さないためにも、症状に応じた積極的なリハビリを行うことが重要です。また、治療を続けても改善が見られない難治性の五十肩には、内視鏡(ないしきょう)を使った拘縮解離術(こうしゅくかいりじゅつ)がよい適応となります。
腱板断裂
石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)や変形性肩関節症などがありますが、代表的なのは「腱板断裂(けんばんだんれつ)」です。夜間痛や可動域制限による日常生活動作障害といった症状も似ているので、五十肩として診断・治療されてしまうケースが多いのですが、五十肩のように症状が自然に治まることはありませんので、症状が長引く場合はMRI検査する必要があります。
腱板断裂というと、あたかも外傷(がいしょう)や怪我が原因のような印象を持たれるかもしれませんが、その多くは加齢に伴って出てくる退行性疾患です。加齢とともに傷んだ腱板が自然に切れたり、軽微な外傷をきっかけに切れたりします。60歳以上の10%の方に腱板断裂が見られるといわれていますが、発症者の約90%は無症状です。症状がある場合でも、多くは五十肩と同様に、痛み止めの内服や関節内注射、リハビリといった保存療法(手術以外の治療)で症状の改善がみられます。ただし、長期間保存療法を続けても改善が見られず、症状が進行するようであれば、手術を検討することもあります。
腱板を縫合して修復
従来の人工肩関節
腱板断裂は、小断裂(1㎝以下)、中断裂(3㎝以下)、大断裂(5㎝以下)、広範囲断裂(5㎝以上)と進行していきますが、大断裂までであれば、関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)で腱板を縫合して修復することが可能です。関節鏡視下手術は、肩関節の周囲に1cm程度の小切開を5~6箇所あけ、その中に細いカメラや手術器具を挿入し、患部を確認しながら行う手術です。傷口が小さく身体への負担が少ないため、術後の回復が早いのが特徴です。
一方、修復不能、もしくは修復しても再断裂の可能性が高い広範囲腱板断裂には、背中にある筋肉を肩に移行して挙上を可能にする広背筋移行術(こうはいきんいこうじゅつ)や、太ももの筋膜を肩に移植することで破綻した関節の構造を治す上方関節包形成術(じょうほうかんせつほうけいせいじゅつ)、さらにはリバース型人工肩関節置換術(じんこうかたかんせつちかんじゅつ)などが行われます。中でも、2014年から日本でも行えるようになったリバース型人工肩関節置換術は、腱板が温存されていないと、除痛効果はあっても動きの回復は期待できなかった従来の人工肩関節置換術と違い、腱板が機能していない方でも、肩の機能回復が期待できるようになりました。また、腱板断裂の状態が長く続き、肩関節が変形をきたした腱板断裂性関節症にも、慢性疼痛の緩和と挙上動作の回復が期待できます。
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