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専門医インタビュー

大腿骨頚部骨折や大腿骨頭壊死症には病態に応じた治療が大切です

千葉県

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この記事の目次

転倒などちょっとしたきっかけによる高齢の方の骨折が増えています。特に大腿骨頚部や大腿骨転子部を骨折してしまうと、寝たきりになる可能性があると言われています。また、何らかの原因で大腿骨頭への血流が悪くなることで生じる大腿骨頭壊死症は、30代や40代の働き世代で発症することが多いようです。大腿骨頚部骨折や大腿骨頭壊死症の原因や治療法について、香取おみがわ医療センターの瓦井 裕也先生にお話を伺いました。

高齢者に多い大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)について教えてください

大腿骨頚部骨折

大腿骨頚部骨折

股関節を構成する大腿骨の骨折には、大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)などがあります。骨粗しょう症で骨がもろくなった高齢者、特に65歳以上の女性に発生することが多く、高齢者の増加に伴い患者数も増えています。大腿骨頚部骨折の場合ほとんどは転倒によるものですが、その中にはちょっとした段差につまずいたり足を踏み込んだりしただけで骨折する方もおられます。骨がもろくなる要因として、閉経によるホルモンバランスの変化や脆弱性骨折の経験、家族歴、骨密度が関連すると言われ、糖尿病や慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの内科疾患、喫煙や低体重、カフェインの過剰摂取なども挙げられます。また解剖学的には大腿骨頚部が長い方のほうが骨折しやすいといわれています。

大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)について教えてください

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭壊死症は、何らかの原因によって大腿骨頭への血流が阻害され、骨が壊死してしまった(細胞が死んだ)状態です。男性で40歳代、女性は30歳代で発症することが多く、関連する因子としては、ステロイド薬の使用歴50%、アルコールの多量摂取(毎日日本酒二合以上)30%、その他(原因が特定できないものを含む)20%と言われます。その中で、アルコールを原因とするのは男性に多く、ステロイドを原因とするのは女性に多いとされています。また、大腿骨頭壊死症を発症した約半数の方が左右の骨頭両方に発症し、中でもステロイドに関連する場合は70%が両方に発症すると言われています。
主な症状は股関節の痛みですが、太もも外側から膝にかけて痛みが出る場合もあり、坐骨神経痛など脊椎が原因の神経痛と間違われることがあります。また壊死の範囲によっても症状が異なってきます。壊死範囲が狭ければ症状が出ないことがあり、他科で行った全身検査で壊死を発見することがあります。一方で壊死範囲が広い場合は、大腿骨頭がつぶれることがあり、強い痛みが生じます。初期の段階ではレントゲン検査で壊死を特定することが難しい場合もあるため、MRI検査も併用し診断していき、壊死範囲に合わせて、保存療法を含めた治療法を行っていきます。

大腿骨頚部骨折や大腿骨頭壊死症に対して、どのような手術を行うことがあるのでしょうか?

高齢者の大腿骨頚部骨折に対しては、骨が大きくずれているかそうでないかで手術方法が変わってきます。骨のずれが小さい場合はスクリューなどを用いた骨接合術を行い、ずれが大きい場合は人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)が一般的に行われています。近頃では活動性が高く麻酔リスクの低い若い患者さんに対しては、人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)が行われることもあります。骨接合術、人工骨頭置換術、人工関節置換術、いずれの場合も術後早期に歩行訓練ができるように十分な固定性を獲得することが重要です。
大腿骨頭壊死症に対する手術は、主に関節温存手術と人工股関節置換術の二つに分けられます。代表的な関節温存手術として骨切(こつき)り術(じゅつ)があります。骨切り術には二種類あり、荷重がかかっている部分の移動を行わない方法と移動させる骨切り術があります。骨切り術は関節を温存できる手術方法ですが、骨がしっかり癒合するまでは行動に制限があります。また、壊死の範囲や骨頭の圧潰の程度により術式が変わってきますので、骨切り術を希望される場合は、股関節専門医にご相談されると良いと思います。
もうひとつの人工股関節置換術は、一般的には壊死範囲の大きな患者さんや、骨頭の圧潰が進行してしまった方に適応となります。人工股関節置換術は骨切り術に比べると入院期間が短く、早期の社会復帰が期待できます。そのため、仕事や子育てのある比較的若い患者さんでは人工股関節置換術を選択される方が増えてきています。

弯曲内反骨切り術(転子部で弩曲に骨を切り移動させます)

弯曲内反骨切り術(転子部で弯曲に骨を切り移動させます)


大腿骨頚部骨折と大腿骨頭壊死症

人工骨頭置換術と人工股関節置換術の違いについて教えてください

前方アプローチ

前方アプローチ

人工骨頭置換術は、大腿骨頭を取り除き人工骨頭に置き換える手術です。一方の人工股関節置換術は、大腿骨頭だけでなく骨盤側の臼蓋も削り、そこにカップと呼ばれる人工物を入れることで、股関節全体を人工関節に置き換える手術です。
人工物置換が必要な大腿骨頚部骨折の場合、一般的には人工骨頭置換術が選択されます。
しかし、若年で活動性が高く、また麻酔リスクの小さい患者さんに対しては人工股関節置換術が施行されることもあります。手術侵襲は人工骨頭置換術のほうが小さいですが、人工股関節置換術では術後の再手術率は小さいと言われています。また人工骨頭置換術で使用される人工関節の耐用年数はおよそ15年、人工股関節置換術で使用されるものは20年程度と言われています。
大腿骨頚部骨折などに対して人工関節の手術を行う場合、従来は股関節後方の筋肉を大きく切って股関節に侵入する方法で行われていました。しかし、後方の筋肉を大きく切ってしまうと、入院期間の延長や、術後の疼痛、筋力低下の問題が生じます。また脱臼率も一般に高くなると言われています。そのため近頃は、股関節周囲の筋肉を温存する前方からのアプローチで人工骨頭置換術や人工股関節置換術が行われるようになっています。

大腿骨頚部骨折や大腿骨頭壊死症の手術を行った場合、どのくらいで日常生活に復帰できるでしょうか?

歩行リハビリ

大腿骨頚部骨折の場合、手術後の活動レベルは骨折する前の歩行能力や年齢、認知機能に大きく左右されます。基本的には骨接合術、人工骨頭置換術ともに早期の歩行リハビリを目指す目的で手術を行いますが、基本となる歩行能力やリハビリの進み具合によっては術後に獲得できる歩行能力が異なってきます。退院時に杖歩行まで出来ていた方は、受傷後1年後も歩行能力の低下が少ないと報告されていますので、退院時の歩行能力がその後の歩行能力を反映する、ひとつの目安になると思います。
大腿骨頭壊死症に関しては、手術方法により大きく異なります。骨切り術などの関節温存手術の場合は、術後1ヶ月程度してから体重をかけはじめ、術後3ヶ月で全荷重、術後半年でもまだ杖をついて歩かなければならないことも多いです。そのため、手術前と同等の日常生活への復帰は早くても手術から半年以降になります。一方の人工股関節置換術では、術後1~2週で退院となることが多いです。職場への復帰に関しては、事務作業などの場合は退院直後から復職される方もおられます。肉体労働への復職は術後3ヶ月程度要することが多いです。

大腿骨頭頚部骨折や大腿骨頭壊死症の手術を受けた場合、退院後の注意点はありますか?

大腿骨頚部骨折の患者さんで骨接合術を受けた方は、骨が癒合するまでしっかりと主治医の診察を受け、ご自身の状態を確認する必要があります。まれに手術後しばらくしてから股関節痛が出現する場合があります。遅発性骨頭圧潰(ちはつせいこっとうあっかい)と言い、場合によっては人工骨頭置換術や人工股関節置換術が必要になることがありますので注意が必要です。
大腿骨頭壊死症で人工股関節置換術を受けられた患者さんは、術後の脱臼に気をつける必要があります。同じ人工股関節置換術を受ける変形性股関節症の患者さんと比較して、大腿骨頭壊死症の患者さんでは術後の脱臼率が高いことが報告されています。また現在は、初回の人工股関節置換術後の良好な長期成績が報告されていますが、比較的若い患者さんの中には、将来に再手術が必要となる方も一定数おられますので、定期的に主治医の診察を受けられることをお勧めします。
人工関節後のスポーツについては、ウォーキングやゴルフ、水泳やテニス(ダブルス)などを行われている方もおられます。また、スキーやハイキングなどは術前からの経験者であれば、主治医と相談の上で実施が可能な場合もあります。ただし、野球やサッカーなどコンタクトスポーツは一般的には推奨されていません。

股関節の痛みに悩んでいる方へメッセージをお願い致します

股関節の痛みや機能制限は、日常生活に大きな影響を与えます。近年では医療の発展に伴い、股関節疾患の診断と治療も飛躍的に向上しています。もし股関節や股関節周囲に痛みを自覚された場合は、我慢せずに一度、専門医に相談してください。患者さん一人ひとりが、より良い治療の選択肢を得ることが大切です。


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