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専門医インタビュー

先進技術によって人工股関節置換術後の行動制限が少なくなっています

  • 白野 誠 先生
  • 新潟県厚生農業協同組合連合会 村上総合病院 整形外科部長
  • 0254-22-3121

新潟県

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この記事の目次

特に中高年女性に多い変形性股関節症。股関節に痛みが出るだけでなく、膝や腰にも痛みが出たり脚の長さが変わったりすることもあるようです。変形性股関節症に対しては人工股関節置換術が一般的に行われている手術ですが、術後に脱臼することを心配されている方がおられます。
今回は、新潟県厚生農業協同組合連合会 村上総合病院の白野 誠先生に、変形性股関節症の症状や先進技術を用いることで脱臼しにくくなっている手術法などについて教えていただきました。

変形性股関節症が進行するとどのような症状が現れてくるのですか?

変形性股関節症の主な症状は痛みです。初期の頃は股関節を動かす時や歩いている時に痛みを感じるのですが、末期の状態になると寝ている時にも痛みを感じて目が覚めるようになるなど、日常生活に支障が出てくることがあります。
股関節に痛みがあるとその脚をかばって歩いたりするので、痛くないほうの脚に負担がかかり膝や腰にも痛みが出てくることもあります。
股関節の変形が進むと痛みだけでなく、大腿骨頭(だいたいこっとう)がつぶれたり正常な位置よりも上にずれたりして、脚の長さが短くなることがあります。脚の長さが短くなると無意識のうちに骨盤を曲げて脚の長さを保持しようとしますが、そうすると本来あるべき頭の位置が変わってしまいます。背骨を曲げてバランスを保とうとするため、腰に痛みが出たり神経痛に悩まされたりすることがあります。しかし、痛みがあっても仕事をしなくてはならい、周囲の方にご自身が痛みに悩んでいることを理解してもらえない、ということが続くとストレスでうつ傾向になり精神にも影響が出ることがあります。

変形性股関節症の進行
変形性股関節症の進行

左右の脚の長さに違いがあった場合、どのような治療が行われますか?

足底板

足底板

左右の脚の長さが大きく異なる場合は、靴の中に中敷きを入れて脚の長さを調整したり松葉杖などを使ったりします。このような装具の使用や痛み止めなどの保存療法を行っても日常生活に支障が出てくるようであれば、人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)が適応となることがあります。人工股関節置換術を行う場合、短くなった脚を極端に長くすると大腿神経が麻痺してしまい、歩行機能に影響を与えることがありますが、3cm程度であれば短くなった脚を長くしても良いとされています。しかし、骨盤が曲がっている状態で脚を長くすると、患者さんは思った以上に脚が長くなったと感じることがあるので、術後にできるだけ違和感なく生活できる範囲で脚の長さを調整することがあります。

人工関節の設置場所が重要になるのですか?

人工股関節置換術

人工股関節置換術

正常な股関節は、寛骨臼(かんこつきゅう)が大腿骨頭を十分に覆い、寛骨臼の周りには股関節唇(こかんせつしん)と呼ばれる股関節の安定性や脱臼を防ぐための組織があります。さらに靭帯によって動きが制御されているのでほぼ脱臼をすることはありません。しかし、人工関節は正常な股関節と比べると少し不安定なので、安定な場所に設置することが重要になります。
人工股関節は、大腿骨(だいたいこつ)側のボールとステム、寛骨臼側のカップとライナーから構成されています。ところが、カップが患者さんの股関節の形に合っていない場所に設置してしまうと、カップとステムがぶつかり(インピンジ)人工関節の脱臼リスクが高まります。また、十分にボールを覆えない場所だとライナーがすり減りやすくなることがあります。そのようなリスクをできるだけ減らすためには、カップの設置場所が大変重要になります。

患者さんに合った位置にカップを設置するには、どのような方法があるのですか?

カップの設置場所は、外に40°、前に15°開いているのが理想的だという報告があります。その角度を目視で判断することはできないので、従来は色々な道具を使って設置角度を決めていました。しかし、術者の目視による確認だけでは予定通りの場所にカップを設置しにくく、医師の経験に頼らざるを得ませんでした。
近年では人工股関節置換術でもコンピュータ技術が普及しており、様々なナビゲーションシステムが使用されています。数値で角度が表示されるものや、モニター上にカップを設置する場所を示してくれるものなどがあり、正確に人工関節を設置することをサポートしてくれます。
人工関節を設置する場所が少しずれているからといって、すぐに脱臼することはほとんどないと思います。しかし、このような手術支援ツールを利用すれば、より正確な手術が行える可能性があるだけでなく、より脱臼しにくく長持ちすることも期待できるので、患者さんにとっての安心感にもつながるのではないかと思います。

人工関節が長持ちするようになっているのですか?

以前はライナーで使用されるポリエチレンがあまり長持ちせず、人工関節は10年~15年しか持たないと言われていた時代がありました。できるだけ長持ちさせるために、ライナーやヘッドの素材にセラミックや金属を使用していたこともありました。
近頃のポリエチレンは改良が進み、従来よりも酸化しにくく長持ちするようになりました。また、ポータブルナビゲーションなどの手術支援ツールによって正確な手術が行えるようになっているので、20年くらいの耐久性が期待できます。

先進技術や手術方法の進歩によって、患者さんにはどのようなメリットが期待できますか?

近年は先進技術を用いた手術方法に加えて、筋肉など股関節周辺の組織をできるだけ傷つけずに温存する手術が行われるようになっています。それらによって従来よりも人工関節が脱臼しにくくなっているだけでなく、早期に回復される方も多くいらっしゃいます。またステムの形状もバリエーションが増えたので、ライナーに対して均一に接しやすくなっているとともにステムとカップがぶつかりにくくなっています。
このような人工関節や手術方法の進歩により、股関節を大きく曲げることができないなど日常の動作の多くが制限されなくなり、従来は術後にできなかった自転車に乗る、農作業や仕事に励む、庭いじりや趣味を楽しむといった行動もできるようになってきています。

変形性股関節症に悩んでいる方へ、先生からアドバイスをお願いします

現在、人工股関節置換術は国内で毎年7万例以上行われており、ナビゲーションシステムなどの先進技術が全国に普及しています。そのおかげで、従来よりも高いレベルで手術が行われるようになり、多くの患者さんの術後の状態がより安定するようになってきています。
今回は手術を中心にお話ししましたが、変形性股関節症と診断されたからといって、いきなり手術になることはなく、まずは保存療法といって手術以外の治療から始めていきます。手術が適応と診断されても、無理矢理受けるのではなく、痛みのせいで日常生活に支障が生じ、手術を受けたほうがもっと楽に暮らせるのではと思った時が適切なタイミングではないかと思います。
股関節に痛みがあれば我慢せずに、まずはお近くの整形外科の先生に相談してほしいと思います。


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