専門医インタビュー
福岡県
プロフィールを見る
女性に多い外反母趾は、変形が進むと足の親指(母趾)以外の指にも影響が出ることがあります。重度になると強い痛みや違和感が出て、「しっかり歩けない」「転んでしまう」「市販の靴が履けない」などの症状に悩まれる方も少なくありません。近年は、重度の外反母趾でも手術での改善が期待できるようになってきています。重度の外反母趾とはどのような状態なのか、またどのような治療方法があるのか、福岡青洲会病院の金澤和貴先生に詳しくうかがいました。
外反母趾かどうかは、足のレントゲン画像を撮った際に、母趾中足骨と母趾基節骨の骨軸からできる角度(外反母趾角)を測定することにより診断されます。日本整形外科学会の診療ガイドラインでは、20度以上の曲がりを外反母趾と定義し、20~30度未満は軽度、30~40度未満は中等度、40度以上を重度としています。
外反母趾
母趾の変形が進んでくると、母趾が足の人差し指(第2趾)の上に乗ったり下に入り込んだりすることがあります。その結果、第2趾が横から見た時に「く」の字のように変形するハンマー趾(し)になります。また横アーチと呼ばれる足の構造が崩れて指が水平に広がってしまう開帳足の状態になると、第2中足趾節関節(MTP関節)の脱臼が生じることもあります。ハンマー趾は第2趾の表側に、脱臼は足裏にそれぞれ痛みを伴うタコやウオノメ(有痛性胼胝)ができやすく、痛みで歩けない、足に力が入らず転んでしまう、市販の靴が履けないなど、生活に大きな支障が出ることがあります。
開帳足
タコ・ウオノメ
(有痛性胼胝)
外反母趾が軽度であれば装具などを使って経過をみることもありますが、重度の場合は保存治療では改善がみられないことが多くあります。そのような方は、手術が選択肢の一つとなります。手術を受けることで変形が矯正され、痛みの軽減や市販の靴を履くことができるといった生活の質の向上を期待することができます。特に、これまで母趾に力が入らず踵(かかと)に力を入れて歩行している方は、歩行バランスが悪くなりがちで転倒してしまうリスクがほかの方に比べると高いです。しかし、手術によって足全体で踏み込めるようになると歩行バランスが改善され、転倒しにくい歩行を目指すことができます。
骨切り術のイメージ
外反母趾の手術としては、母趾中足骨に対する骨切り術(こつきりじゅつ)が選択されることが一般的です。しかし、重度の外反母趾は手術の難易度が高くなり、手術後の再発率も重度になるほど高いとされています。第2趾のハンマー趾や脱臼などによる母趾以外の変形を伴うことが多いため、どこまで矯正を行うかなど多くの課題があり、骨切り術では対応できないこともあります。そのような場合には、骨切り術ではなくLapidus(ラピダス)法を行うことがあります。
ラピダス法(Lapidus法)
第1足根中足関節(TMT関節)の骨の表面を削って変形を矯正し、関節間を固定する方法です。骨切り術と比べてより強い変形を矯正することができます。
この方法が行われ始めた当初は、糸を使って関節を固定していました。この方法だと強い変形には対応できますが固定力が低く、手術後も外からの固定が長期間必要であることや、骨がくっつく(骨癒合)までに時間がかかってしまうことなどが課題でした。
しかし近年、糸に替わる内固定材料(インプラント)とインプラントを挿入するために使用される手術器具の開発が進み、これらの課題がカバーされつつあります。インプラントは材質やデザインの改良により、以前と比べて高い固定力を期待できるようになりました。また骨の切除やインプラントの設置で使用する手術器具もより使いやすいものが増え、適切な位置にインプラントを設置することが可能となっています。手術後も高い固定力を維持できることで、再発防止を期待でき、より早い骨癒合を目指すことができます。
手術をして1週間後から、踵(かかと)にのみ体重がかけられる靴(前足部免荷装具)を装着して歩行訓練を始めます。手術の創(きず)の状態が改善して腫れや痛みがひいた後は、筋力訓練やストレッチを順次開始していきます。階段の上り下りができるようになることが退院の目安の一つです。入院期間は個人差がありますがおよそ10日~2週間程度となります。手術をして6週間~2か月後くらい経てば前足部免荷装具を外すことができますが、手術をして3~4か月間は腫れが続くことがあります。市販の靴などを試していただく際は、腫れが引いてからにしましょう。
外反母趾は、重度になってから病院に来られるという方がほとんどです。重度になると手術が複雑になることがありますから、気になる症状がある方はひどくなる前に整形外科へ受診されることをおすすめします。
また重度で手術が選択肢となった方も、現在では強い変形に対応できる手術選択肢があります。あきらめず、ぜひ一度専門医にご相談ください。
ページの先頭へもどる
PageTop