専門医インタビュー
千葉県
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現在、多くの中高年女性が「脚の付け根が痛い」、「脚が広がらない」、「歩きづらい」などの悩みや不具合を抱えているといわれています。ひょっとしたらその痛み、変形性股関節症によるものかもしれません。「人工関節にする/しないに関わらず、筋肉をしっかり付けておくことが重要」と話すのは、千葉県東金地区で2014年4月に立ち上がった千葉メディカルセンターで、整形外科の中心となって診療にあたっている中嶋 隆行 先生。今回は、変形性股関節症の治療法と人工股関節置換術についてお話を伺いました。
股関節の構造図
変形性股関節症は、もともと臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)がある人が、中高年になって発症するケースが約9割を占めています。残りの1割は、関節リウマチや外傷、ステロイド剤の副作用によるもので、骨頭壊死などのために股関節に痛みが起こることもあります。股関節はポールとソケットのような形状で、大腿骨の丸い骨頭(こっとう)が、骨盤側のお椀のような臼蓋といわれる部分の中にはまって、自由な動きができるようになっています。臼蓋形成不全とは、この臼蓋の形が不完全であるために、大腿骨頭が臼蓋に収まらず、はみ出している状態のことをいいます。使い続けているうちに股関節に負担がかかったり軟骨がすり減ったりすることで、痛みが出てくるとともに関節が硬くなり、動きが悪くなります。以前は、乳幼児期の抱っこの仕方やオムツの当て方などが原因で股関節に圧力が掛かりすぎ、大人になってから発症することもありました。現在は、乳幼児3カ月健診で先天性股関節脱臼がないかどうかをチェックしているため少なくなりましたが、そこで見逃され治療されずにいるケースはまだゼロではないでしょう。
末期のX線 正面(左)、側面(右)
軟骨がなくなり骨が潰れている
まずは、30代から40代で股関節に軽い痛みが出てきます。初期には、例えば捻るような姿勢をした時に股関節が痛くなる程度で、軟骨が残っているうちはあまり痛みを感じないかもしれません。軟骨がどんどんすり減って進行期に差し掛かると、股関節が常に痛くなります。この状態が続くと病院で整形外科を受診する人が多くなります。末期になると安静時にも痛くなり、左右の脚の長さに差が出て、歩き方のバランスが悪くなることもあります。患者さんの中には、はじめは腰や背中、太ももの痛みを訴えて、股関節が悪いとは思っていない人もいます。腰椎の変形や坐骨神経痛と診断され治療をしていたけれど一向に良くならないため他の施設に行ったところ、実は股関節の変形による痛みだったという人もいます。股関節の専門医がレントゲンを見れば、隙間が狭くなっていて軟骨が少なくなっていることはすぐわかります。脚・腰に違和感を覚えたら、股関節を専門に診ている整形外科医に相談することも、ぜひ選択肢に入れてもらいたいですね。
初期段階の治療法としては、減量を始めとする「体重コントロール」と股関節の周りの筋肉をつける「筋力トレーニング」が大切です。股関節は、軟骨や筋肉、腱などに囲まれていますが、こうした組織が今後も股関節を支えられ安定したスムーズな動きができるようにすることが、初期の治療の目的です。ただ、股関節に負担をかけすぎると逆効果になるため、太ももやおしりの筋力トレーニングを勧めています。中でも効果的なのが「水中ウォーキング」です。浮力のおかげで、より少ない過重で訓練することができます。このように、股関節の異常に早めに気が付いて減量や適度な運動などの保存的治療を続ければ、手術を回避することも可能です。適度な運動には、患者さんの活動性を上げるだけでなく痛みを感じないようになる効果もあると思います。ある程度痛みを感じる場合は、消炎鎮痛剤を処方することもあります。しかし、痛み止め薬を服用しても、痛みが和らぎ活動性が上がることはありますが、変形性股関節症そのものが治ることはありません。保存的療法をしばらく続けても改善がみられない場合は、そろそろ手術を検討するタイミングであるといえるでしょう。
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