専門医インタビュー
神奈川県
プロフィールを見る
日本は世界一の長寿国となりましたが、必ずしも皆が元気なまま天寿を全うするわけではありません。最近の10年間で男女ともに健康寿命は延びていますが、平均寿命との差は依然縮まっておらず、まだまだ多くの高齢者が病気で通院や入院、介護を受けているのが現状です。「いつまでも元気で歩くためには、人間の歩行において重要な機能である股関節を健康に保つことが大切です」と話すのは、聖マリアンナ医科大学の教授である別府諸兄先生。日本股関節研究振興財団の理事長として、よりよい股関節治療のあり方について、人工股関節置換術を中心に詳しく教えていただきました。
立ったり座ったり、歩いたり走ったりなど、私たちが日常生活の中で普段から行っている動作をするときに重要な役割を果たしている関節が股関節です。その股関節に「動き始めに痛い」、「違和感がある」、「動かしづらい」などの症状が出てきたとき、その原因として考えられるのは「変形性股関節症」です。変形性股関節症は、股関節にかかるストレスによってクッションである大腿骨頭や関節軟骨が傷んで、股関節が変形して痛みが出てくる疾患です。痛みをかばって動くため、歩き方のバランスが悪くなり、股関節の可動域が低下して日常生活に支障をきたすこともあります。日本における有病率は男性よりも女性に多く、発生年齢は40歳~50歳といわれています。海外では重すぎる体重に股関節が耐えきれなくなって起こる「一次性」の変形性股関節症が多くみられますが、日本人の場合は、先天的に臼蓋形成不全があり幼児期に股関節脱臼などを患ったことがある人が、加齢による股関節の変化で痛みが出てくる「二次性」の変形性股関節症がほとんどです。その他、化膿性股関節炎や大腿骨頭壊死、関節リウマチ、骨折などの外傷なども二次性の変形性股関節症の要因になります。また、近年増加しているのが「急速破壊型股関節症(RDC)」です。例えば、70代~80代の女性でもともと軽い臼蓋形成不全がある人が骨粗鬆症を患うと、半年~1年の短期間で急速に大腿骨頭が脆くなり、股関節症が進んで骨頭がつぶれてしまいます。高齢化社会に伴って出てきた、新たな病気の一つです。
患者さんの症状には個人差がありますが、軽い臼蓋形成不全の場合は子供の頃に気づくことはあまりないでしょう。中学や高校のときにはスポーツをしても異常を感じなかったのに、妊娠などを機に体重が増えてしまうと徐々に痛みが出てくるようになります。出産後、体重がもとに戻ると痛みは消えてしまいますが、2人目、3人目の出産とともに体重が増えていくにつれて、股関節に負担がかかり少しずつ症状があらわれてきます。子育ての時期は忙しいからとそのままにして、50歳くらいになってから受診するというのが一般的なパターンですね。女性の場合は、このように長い期間痛みを我慢して動きをセーブしているうちに筋力が弱ってしまい、その後に人工股関節置換術を受けてもなかなか自由な動きが取り戻せないことがあります。男性の場合は、骨頭壊死や外傷から起こる二次性の変形性股関節症が比較的多く、痛みを我慢している期間も短いため、筋力が残っていて手術をすると多くの人が元気に歩けるようになります。
靴底の高さを調整することで、歩容の悪さが改善されます
変形性股関節症の治療法には、保存療法と手術療法があります。残念ながら一度傷んだ軟骨は元には戻らないため、変形性股関節症の治療は長期に渡ります。保存療法は、治療を通して痛みと上手く付き合い、加齢現象に負けない身体を作ることが目的です。具体的には、まず生活指導を行います。股関節にかかる負荷は体重の5倍~6倍になりますから、痛い時には股関節に無理に体重をかけないよう安静にしてください。その上で、湿布や非ステロイド性の消炎鎮痛剤の服用などの薬物療法で痛みを和らげます。温熱療法やマッサージなどの理学療法も血流改善やリラクゼーション効果をもたらすでしょう。関節機能や日常的な動きの補助として、股関節を支えるサポーターやヒールクッション、靴の補高などの装具療法も期待できます。保存療法の中で特に勧めているのが、筋力訓練、ストレッチ、機能訓練などの運動療法です。股関節の周囲は複数の筋肉で保護されていますが、運動することで十分な血液が送り込まれ、この筋力を維持することができます。股関節を支える筋力を衰えさせないことが、痛みを軽くし症状を悪化させないカギといえます。
ページの先頭へもどる
PageTop