専門医インタビュー
初期であれば、保存療法だけで症状が改善することもある「変形性膝関節症」。しかし痛みや変形が進行し、日常生活に大きな支障をきたすようになると、やはり手術も選択肢に入ってきます。「体は元気でやりたいことはたくさんあるのに、膝の痛みのために思うような生活ができなくなっている人にとって、人工膝関節置換術は大変有効な治療法です。多くの人が痛みのない生活を取り戻し、イキイキとされていますよ」とアドバイスする佐世保中央病院の北原博之先生。日本人の変形性膝関節症の原因となる内反膝、活動性の高い生活を望む人への矯正骨切り術、術中・術後の出血管理で輸血の要らない人工膝関節置換術、術後早期からリハビリを開始することの重要性などについてお話を伺いました。
変形性膝関節症のX線
高齢者の膝の痛みの原因として一番多いのは「変形性膝関節症」です。変形性膝関節症には原因がはっきりしない「一次性」のものと、過去に経験した半月板断裂や靭帯損傷、リウマチなどが原因となって起こる「二次性」のものがありますが、日本人の場合はほとんどが一次性です。欧米人に比べて、もともと日本人には内反膝(O脚)の人が多いのですが、これに「肥満」や「加齢による骨の脆弱化」が加わるとさらに内反が進み、膝関節の内側に過大な荷重がかかるようになります。その結果、膝の内側の軟骨が摩耗して骨が直接こすれ合うようになって、膝関節の変形が進んでいきます。症状の訴えとしては「立ち上がる時に痛い」、「歩き始めの数歩が痛い」といったものが多いのですが、中には階段が昇れなくなって自宅の二階に数年間上がっていないという人もいます。長崎には坂が多いという環境要因もあるため、全国的に見ても変形性膝関節症の人が多いような印象を受けますね。
変形性膝関節症の進行度合は、大まかに初期・中期・末期といった段階に分けられますが、初期であればまずは保存療法から始めます。保存療法はまだ残っている軟骨を保護すること、炎症を取ることが治療の中心になります。定期的なヒアルロン酸Naの関節内注射や足底の外側を高くして荷重位置を膝関節の外側に移す足底板(インソール)の装着、膝周囲の筋肉を鍛えて膝の安定性を高めるための筋力トレーニングなどを行うことで症状が改善する人も少なくありません。また、病期を進行させないためにはダイエットがとても有効です。しかし膝が痛い患者さんにとって、歩くダイエットは辛いものですね。
軟骨を保護し、炎症を取ることが目的
可能であれば、膝への負担が少ないプールでの水中歩行をお勧めします。実際に20㎏のダイエットに成功し、膝の痛みが改善した患者さんもいらっしゃいますよ。これらの保存療法によって患部の炎症が治まり、膝関節の状態が安定することで歩行が可能になれば、そのまま経過観察を続けます。しかし、病状が進行していて保存療法では改善がみられず、日常生活に大きな支障をきたしている場合には、やはり「矯正骨切り術」や「人工膝関節置換術」といった手術が必要になります。
矯正骨切り術のX線
矯正骨切り術とは、自分の骨を切って脚の変形を矯正する手術です。家屋で例えると、「柱(骨)が傾いているものの直せば使える状態なので、くさびを入れてまっすぐに立て直す」といったイメージでしょうか。内反変形で膝関節の内側がすり減っている人に対して、手術で脚の形をまっすぐにし荷重面を外側に移すことで、内側の負担を減らします。骨の状態がしっかりとしている必要があるため、対象は進行度が中期までで比較的若い中高年の人に限定されますが、人工関節と違って自分の関節を温存できるので術後の日常生活や運動に制限がなく、緩みや摩耗といった心配もありません。今後も働かなければならない人や、スポーツや山登りといった活動性の高い生活を望む人にはとても有効な手術です。矯正骨切り術だけで、生涯、人工膝関節置換術を行わないで済む人もたくさんいます。ただし、回復にかかる時間は人工膝関節置換術よりも長くなります。入院期間は約1ヵ月半、日常生活に支障のないレベルまで回復するには術後約3ヵ月かかります。また、くさび状に切った骨の間に挿入する人工骨が自分の骨に変わるのに約2年かかるため、その間は多少の違和感と痛みが残ります。
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