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専門医インタビュー

放っておかないで! 肩の病気やケガ ~早期に適切な治療を受けることの重要性~

この記事の専門医

  • 玉井 和哉 先生
  • 東都文京病院 整形外科顧問 獨協医科大学 名誉教授
  • 03-3831-2181

東京都

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日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本リウマチ学会指導医

この記事の目次

「最近、水の入ったポットを持ち上げられない・・・」、「高い所にある物が取りづらい・・・」、「夜、痛みで目が覚める・・・」など、肩の痛みや違和感に悩みながら日々を過ごしている方は少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、肩関節と関節リウマチの専門医である東都文京病院の玉井先生に、肩に多くみられる病気やケガ、そしてその治療法についてお話を伺いました。

肩の病気やケガで多い症状を教えてください。

まず肩のケガとして代表的なものが二つあります。ひとつは「上腕骨近位部骨折(じょうわんこつきんいぶこっせつ)」。もうひとつは、肩関節の「脱臼」です。病気で代表的なものは、「腱板損傷(けんばんそんしょう)」「五十肩」「変形性肩関節症(へんけいせいかたかんせつしょう)」「関節リウマチ」があります。

上腕骨近位部骨折とは?

上腕骨近位部骨折は、上腕骨の一番肩に近いところ、つまり肩関節に近い部位が折れるケガで、高齢者に多くみられます。高齢者は骨粗しょう症などで骨がもろい場合が多いため、転倒して手をついたり、高い所から落ちたりしたときに起こりがちなのです。程度の軽いもの、ズレの少ないもの、骨がバラバラになってしまうものなど、折れ方はさまざまです。痛みがあって動かせない、内出血があるといった症状がみられます。骨同士のズレが少なければ手術をせずに三角巾などで吊って固定したあと、徐々に肩の動きを回復させるためのリハビリを行っていきます。

脱臼とは?

脱臼は若い人に多くみられます。たとえばラグビーなどのコンタクトスポーツで強い衝撃を受けると、本来は向かい合っているべき肩甲骨と上腕骨が外れてしまう。これが脱臼です。その95%が、上腕骨が肩甲骨の前側にずれるケースです。もともと体質的に関節がゆるく、何かの拍子に関節がはずれてしまう場合もあります。何度も脱臼を繰り返すことで脱臼グセがつく反復性脱臼(はんぷくせいだっきゅう)になると、手術が必要になることもあります。もし脱臼してしまったら、すぐに近くの整形外科で応急処置をしてもらいましょう。

腱板損傷(断裂)とは?

「腱板損傷」は、「腱板断裂(けんばんだんれつ)」と呼ばれる場合もあり、ケガによることもありますが、加齢に伴って自然に起こることも多いのです。

肩関節を覆っている表面の筋肉の下には4本の腱があり、上腕骨の頭の部分をコントロールしているのですが、その腱が切れてしまうのが腱板損傷です。40代から少しずつみられ、50代、60代、70代と増えて、80代では半分くらいの方の腱が切れていると言われています。長年、腕を使い続けると、こすれて摩耗し、切れていきます。このような場合には自覚症状がないことも意外に多く、ひとつ、ふたつ切れていても気づかない。3つ断裂している人もいます。まれに4つすべてという場合もあります。

症状としては、動かすと痛い、力が入らないといったものがあります。筋肉を支える腱ですから、損傷するとモノを持ち上げようとしても持ち上がらないのです。水の入ったコップや箸を口に運んだり、腕を空中に保持したりするのも腱板の力。エックス線や超音波、MRIで調べると断裂がわかりますが、手術をするかどうかはこのような検査の結果ではなく、実際に困る度合いで決めます。転倒などの外傷で損傷した場合は三角巾で固定して安静にし、非ステロイド性消炎鎮痛剤や関節内注射、運動療法などの保存的治療を行います。夜も眠れないほど痛みが強い場合や力がなくて困る場合には手術を行います。

五十肩とは?

「肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)」、通称「五十肩」は40〜60代に発症し、文字通り50代に多くみられます。原因はわかっていませんが、いつの間にか起こり、1〜2年ほどで自然と治ります。

症状は、痛みと動きの悪さです。力はあるのですが、関節が硬い。フローズンショルダーと呼ばれるように、凍結したようにカチカチに固まってしまい、動かそうと思っても動かない。統計をとると女性が多いのですが、それほど大きな男女差はありません。誰でも発症する可能性があります。

五十肩はほとんどの場合、治りますが、痛みのある間はかなりつらいものです。しんしんと重苦しい痛みがあり夜眠れないこともあります。腱板断裂も同じですが、五十肩も不思議と、寝るときに痛みが強くなるのが特徴です。痛みがひどいと非ステロイド性消炎鎮痛剤や関節内注射、運動療法で痛みを取る治療をします。

変形性肩関節症とは?

「変形性肩関節症」は文字通り、肩の関節が変形するもので、一次性と二次性とがあります。一次性は特に原因がないもの、年齢や体質などの内的要因によるもので、人種的には白人に多くみられます。日本人には本来少ないはずですが、高齢化が進む中、70〜80代で増えています。スポーツ選手など特別な使い方をするのでなければ、発症するのは60歳以降です。二次性は、若い頃のケガや腱板断裂、脱臼などが原因となり、誘発されるパターンです。いずれにしても、股関節や膝関節のように体重がかかる関節ではないため、変形性肩関節症を発症する割合は高くはありません。しかし症状が進行すると動きが制限され、強い痛みを感じるようになります。

初期の変形性肩関節症であれば「保存的治療」を行います。非ステロイド性抗炎症薬や慢性疼痛の薬を服用したり、ヒアルロン酸やステロイド製剤などを関節内へ注射することで痛みを緩和させます。また、動きが悪くなりがちなので、温熱療法や電気刺激療法に加えて適度な運動も行います。関節を動かす練習、肩のストレッチ、痛みが出ない程度の穏やかなリハビリで筋肉をつけていきます。関節のすぐそばにあるインナーマッスルを鍛えると症状がよくなりますから、毎日少しずつ続けることが大切です。

保存的治療を継続的に行っても肩の痛みが改善しない場合や、肩の可動域が大きく制限されて日常生活に支障が出る場合は、手術を行うことがあります。 初期の場合は、内視鏡で関節の中を見ながら悪い組織を掃除(切除)します。すでに変形が進行している場合は、「人工肩関節置換術」を行います。関節の痛みの原因であるすり減った軟骨と傷んだ骨を切除し、人工関節に置き換えるのです。70歳以上の方で、腱板断裂に伴った二次性変形性肩関節症には、リバース型人工肩関節置換術を行います。これは腱板が切れていても拳上ができるようなデザインの特殊な人工関節です。いずれも手術によって多くの患者さんが「長年の痛みが一気に取れた」とおっしゃいます。70代、80代の高齢者が多いのですが、活動的な方が手術を望まれる傾向があります。

関節リウマチとは?

「関節リウマチ」は、全身の関節に痛みやこわばり、腫れなどを発症する炎症性関節疾患や自己免疫疾患の一種です。関節リウマチによる肩のつらい痛みに対しても人工関節置換術は有効です。通常の人工関節とリバース型のどちらも行われます。

自己免疫疾患とは、自分の組織を敵だと誤認識して攻撃するもので、関節を包んでいる関節包の内側にある「滑膜」の組織が戦いの場となります。その結果として炎症が起こり、軟骨や骨も壊れて変形したり、痛みが出たり、動きが悪くなったり、可動域が狭くなったりするわけです。30〜50代の女性に多くみられ、症状が出る箇所は人それぞれで、たいていは数カ所に痛みがあります。原因はわかっていませんが、免疫異常や炎症などの血液検査をすると、特有の変化がみられます。

治療法は、食事や関節への負担のかかり方など日常生活を見直す基礎療法、抗リウマチ薬や生物学的製剤、副腎皮質ステロイド剤などの薬物療法、温熱療法や運動療法、人工関節置換術による手術療法など、症状の進行具合によって異なります。


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