専門医インタビュー
手術前と人工膝関節置換術後のレントゲン
骨切り術は高い可能性のある手術だと思いますが、全員に適応できるわけではなく、そして手術自体も行える施設は限られているのが実状です。
それに対して、人工膝関節置換術は、比較的多くの医療機関で手術が行われている治療です。骨切り術は、歩行訓練など術後数日から可能で、退院時には杖も手すりも持たずに階段昇降ができる様になる人も多いのですが、骨が完全につくまでに数か月時間がかかります。また、歩き方を再教育していく必要性があるため、元々の職場に復帰するのに求められる活動性によっては、少し時間を要するのは事実です。そのため、仕事を長く休めないなど早期に社会復帰したいという人や、70代後半や80代の人で激しいスポーツ活動を望んでいないという人には、早期に痛みや変形が改善し、早く元の生活に戻れる可能性が高い人工膝関節置換術の方が向いていると思います。ただし、手術を受けた後は、生活の質を高める為にも患者さん自身が正しい体の使い方を意識し、筋力をつけていくことが大切です。人工膝関節にしても、軽い卓球やテニスのダブルスなどはできますし、ゴルフのシングルプレーヤーで人工膝関節にした人もいます。
人工膝関節の一例
技術の進歩に伴い、靭帯を温存できるもの、骨をより多く温存できるものなど人工膝関節にもいくつか種類があります。骨を温存するメリットは、将来、万が一、人工膝関節の再置換の必要が出てきた場合、骨がより多くあったほうが、より安全に手術を行える可能性が高いからです。人工膝関節は、あくまでも金属の人工物ですから、虫歯や歯周病などの口腔内の細菌からの感染や、思いがけない強い衝撃による骨折などのリスクもあります。一回の手術で人生をまっとうできればハッピーですが、そうでない場合もあるので、再置換の可能性も視野に入れた上で設計されている人工膝関節であれば、患者さんにもメリットがあると考えています。
どんな治療法を選ぶのか、それを決めるのは、最終的には患者さん自身です。何をしたいのか、どんな生活を送りたいのかを、まず、自分の中でしっかりと決めることが大切です。
その上で、それを実現するためにどんな治療法があるのか、あらゆる治療の可能性を確かめて、選択することが重要だと思います。治療は、あくまでも患者さんと医師の二人三脚で行われるものです。言ってみれば医師は伴走者で、患者さんはランナー。そのために、ランナーがより良い状態でゴールにたどり着けるように、その人に適切な治療法を提供してあげたいと考えています。私は、学生時代にラグビーをやっていたので、ケガをしてもスポーツを続けたい、復帰したいという人の気持ちがよく分かります。そういう人たちの気持ちにも寄り添えるよう、人工膝関節置換術だけでなく、骨切り術、靭帯再建、再生医療など様々な治療方法があるので、専門医にしっかり相談してください。特に、激しいスポーツを続けたいと願う人たちにとって人工膝関節は可能であれば、できる限り回避したい最終手段だと思いますから、その前にできることをご自身でも情報収集し、なるべく多くの治療の選択肢を示してくれる医療機関や医師を選ぶことも大切だと思います。治療方法だけでなく、正しい体の使い方によってできるだけ長く筋力を保つ方法など、木だけでなく森全体をみて、適切な治療やアドバイスを受けられる医療機関を選んでください。
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