専門医インタビュー
これまで人工関節置換術は、65歳以上で行うべきだといわれてきました。それは、人工関節の耐久性の問題からです。現在の人工関節は精度も耐久性も上がったとはいえ、15~20年経てば入れ直す必要が出てくるでしょう。しかし、人工股関節置換術は、本当は一番活動性が高い30代、40代の人にこそやってあげたいと思うのです。65歳になるまで待つのではなく、十分に説明し納得していいただいてから手術を勧めています。
人工股関節置換術を行うことができないケースは、それほど多くありません。実際、高齢になると、大抵、他の疾患を持っています。人工股関節置換術を行う前に検査をしたら、心臓に異常が見つかった人もいました。その方は、まず心臓の手術を行い、1年後に股関節の手術をしました。糖尿病の人でも、血糖のコントロールができていれば大丈夫です。きちんと全身の状態を確認した上で判断しますので、初めからあきらめないで相談してください。このような全身の管理は、総合病院だからこそ対応できることだと思います。
日本人の女性の場合、骨頭のサイズは大体4.5~5cm程度、この中に3cmくらいのセラミック(陶器)のボールが入ります。人間の股関節は高いところから転落したりするなど、余程のことがない限り簡単には外れませんが、人工股関節は中のボールが本物よりもふた回りくらい小さくできているので、あまり変な動きをすると外れてしまうこともあります。できる限り脱臼を避けるためにも、安定するまで術後3か月くらいは注意が必要です。特に、足を深く曲げたり、捻じったりする動作はしないでください。それ以外は、あまり無理な姿勢さえしなければ大丈夫です。ただ、マラソンなど、股関節に衝撃を与える動作やスポーツは勧められません。スポーツでは、水泳を勧めています。
人工股関節置換術で脚が本来の長さになった時、たるんでしまった筋肉はすぐには戻りませんから、「中殿筋を鍛える体操に力を入れてください」とアドバイスしています。脚の長さが揃えば、足を横に上げる動きも楽にすることができるようになります。歩く練習と横上げの体操を3か月も続ければ、筋肉がついて、もっともっと歩きやすくなります。なお、人工関節が中で緩んでしまわないよう、術後も定期的にレントゲン検査などを行って確認するようお願いします。定期的に検査を受けていれば、もし不具合が生じたとしても全部入れ直すのではなく、パーツだけを入れ替えることも可能です。手術を受けた後も、整形外科医とは生涯付き合っていくと考えてください。
どの年代の方でも、人工股関節にすると痛みがなくなるので喜ばれます。特に若い方は、痛みが取れるだけでなく跛行(はこう)も治り、バランスの良い歩き方ができるようになるため、患者さんの満足度も高いようです。多くの方から、「もっと早く人工関節にすればよかった」といわれます。始めは車椅子で来院していた人が、自分の脚で歩けるようになると、表情も明るく元気になり、いろいろなことに挑戦してみたいと積極的になられるようです。
人工股関節の手術を受けるために、痛みを我慢しながら65歳まで待たなくてもいいと思います。股関節の痛みのために、日常生活に支障が出て職までも失ってしまったら、本末転倒です。人工股関節は、痛みを取るだけでなくバランスのいい歩き方ができるなど、患者さんの社会復帰を可能にします。普通の人が普通の日常生活を難なく送ることができるようにするのが、人工関節置換術の目的といえるでしょう。 痛みで活動が制限され生活の質が低下してしまう前に、まずは股関節が専門の整形外科医に相談をして、適切な治療を受けてください。そして症状が進行する前に、タイミングを逃さず、適切な治療を受けることが重要です。
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