専門医インタビュー
山梨県
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水中ウォーキング
変形性股関節症の治療は、まずは、鎮痛薬の服用や杖の使用による装具療法、股関節周りの筋力トレーニング、可動域(動く範囲)訓練によって痛みの改善を目指します。特に、筋力トレーニングでは股関節の不安定性をサポートするために、外転筋(がいてんきん)や大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、大殿筋(だいでんきん)の筋肉を鍛えるとよいでしょう。股関節に痛みがあって動かすのがつらいときは、等尺性運動(とうしゃくせいうんどう)といって関節を動かさずに筋肉を収縮させる運動をお勧めします。具体的には、イスに腰掛けた状態や仰向けに寝た状態でゴムバンドを太ももか膝かすねか足首に巻き、ゴムバンドの締める力に逆らって股関節を広げるという運動です。
これなら関節の動きを少なくして筋肉を収縮させるので、痛みをあまり感じることなくトレーニングができます。あるいは、プールでの水中ウォーキングは、水の浮力と抵抗力によって関節を守りながら筋力を鍛えられるのでお勧めできます。さらに、体重が重い人は、1kg体重を減らすと股関節への負担は3kg 程度減らせることになるので、減量によって痛みが軽減することもあります。ただしこのような治療を続けても痛みが改善せず、生活に支障が出ているようなら、次の治療の選択肢として骨切り術や人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)といった手術を検討することがありますが、どの手術療法を選択するかは、ご自身の年齢や体力、社会的環境などの様々な要因を総合的に考えて選択することが大切です。
人工股関節の合併症の一つに脱臼があります。脱臼のしやすさは人工関節の設置位置に大きく影響されますが、人工股関節を設置する手術方法によっても、術後に脱臼する確率は変わってきます。今、世の中で最も多くおこなわれている後方系のアプローチだと、股関節の展開が比較的容易で人工関節の設置がしやすいというメリットがある反面、股関節の後ろ側の筋肉の一部や関節包を切ることによるデメリットがあります。デメリットとは、筋肉や組織をメスで切ると、それがくっつくまでに時間が必要である上に、術前の状態によっては組織をうまく修復しきれないことです。人間の股関節は曲げるほうに大きく動きます。深く曲げると股関節の後ろ側の関節包や筋肉などの組織は緊張して可動域を制限します。後方アプローチで手術を施行した場合、後ろ側の関節包や筋肉が弱くなっており、和式トイレなどで深くしゃがみ込むと、人工関節が脱臼するまで曲がってしまうことがあります。このような脱臼リスクを改善するために、最近、股関節の前よりから股関節を展開する前方系アプローチによる手術が増えています。前方系アプローチは、筋間侵入(きんかんしんにゅう)といって筋肉を切離せずに筋肉の間から股関節を展開して人工関節を設置することができます。筋肉へのダメージが少ないので術後の回復が早く、股関節の後ろ側の組織が温存されるため、手術直後からしゃがみ込んでも後ろ側に脱臼することがほとんどありません。さらに、仰向けの姿勢で行う前方系アプローチの場合は、手術中に股関節を深く曲げて関節安定性(脱臼するかどうか)を入念に評価し、脱臼しないことを確認できるというメリットがあります。麻酔のかかった状態で脱臼しなければ、麻酔覚醒後は筋肉の収縮によって、より外れにくくなります。そのため、手術後にとってはいけない姿勢や動きの制限もあまり設けずに、リハビリテーションを行えるという安心感もあります。
人工股関節の一例
(黄色い部分が摺動面)
数十年前は股関節の摺動面(しゅうどうめん)(こすれ合う面)に使われていた人工軟骨に相当するポリエチレンの耐久性が弱く、10~15年も経つとポリエチレンの摩耗がおこることは珍しくありませんでした。摩耗すると摩耗紛が発生し、体にとって異物である摩耗紛は免疫細胞に取り込まれます。その際に免疫細胞の一部は骨を溶かすため人工関節が弛み、再手術が必要となることもあります。人工股関節の再手術は脱臼や感染のリスクが増して、初めの手術よりも術後成績が低下するため、人工股関節置換術は60歳以降の人に勧められていました。しかし、現在は、摩耗しづらいポリエチレンやセラミックが摺動面に採用されており、耐用年数は25年~30年以上といわれています。そのため、働き盛りで高い活動性が必要とされる比較的若い年代の人でも人工股関節手術を選択しやすくなっています。
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