専門医インタビュー
神奈川県
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人工膝関節と人工股関節の一例
股関節の場合、あまりにも変形が進行すると、保存療法によって痛みは緩和できたとしても、関節の動きが改善しないため生活への影響が大きくなる場合があります。膝も股関節も半年~1年ほど保存療法を続けても改善が見られず、生活に支障がある状況が続いていれば、人工関節の手術を検討しても良いでしょう。ただ痛みが強くてもレントゲンやMRI画像でみてそれほど悪い状態でないことが確認できれば無理に手術を行う必要はなく、痛みを和らげる他の治療を試しながらしばらく様子を見ていくこともあります。
手術は誰でも怖かったり、避けたいものであり、やはり我慢に我慢を重ねて70代、80代で手術を受ける方が多いのが実情です。しかし手術を受けた多くの方から「もう少し早く手術を受けたほうが良かった」と言われることもよくあります。現在の平均寿命を考えると、60代で痛みが出ればその後20年以上も痛みと付き合う可能性が高いのです。手術を受けるタイミングはあくまでご自身で決めるものですが、この先どのような人生を送っていきたいかを専門医とご相談の上、ご自身に適切なタイミングを逃さないでいただきたいと思います。
手術で重要なのは、患者さん一人ひとり異なる「使いやすい」膝をどう実現していくかです。そのために、事前にCTやMRI検査をもとに骨の状態や周りの腱など軟部組織の状態を確認し、どのような人工関節を使用したほうがスムーズに膝が動くのかを入念に検討します。また最近では様々なナビゲーションシステムが進歩し、事前のシミュレーションに基づいたより精緻な手術が可能になっているため、適切な人工関節を設置する位置や角度を1mm、1度の単位で調整し、できるだけ自然で使い心地の良い膝の再現を目指しています。人工膝関節の機種には大きく分けると、後十字靭帯を切離するタイプと温存するタイプの2種類がありますし、他にも最近では前十字靭帯を温存するタイプもありますが、患者さんの個々の膝の状態も変形が軽度のものから重度のものまでさまざまなため、適合性を判断するのは非常に難しいところがあります。ただ、それでも個々の膝の変形や変性を踏まえつついかに良い状態にうまく落とし込むかという点を、しっかり念頭に置いて治療に当たるようにしています。なお、術前に膝の可動域が広い方ほど、術後はさらに良くなるという比例関係にあります。そのため、術前には十分なリハビリを行い、動きを良くしてから手術に臨むのが理想的です。手術が決まれば、術前の2、3カ月前から理学療法士のもとで筋トレや可動域訓練を行い、手術に向けてより良い状態をつくっていきます。
昔から人工股関節置換術で懸念されてきたのが術後の脱臼リスクです。近年はそれを低減するためにさまざまなアプローチ(進入方法)が開発されています。人工骨頭置換術に多く用いているCPP(Conjoined tendon Preserving Posterior)アプローチは、股関節の後方から皮膚切開して進入し、重要な腱や筋肉を傷つけずに人工関節を設置する方法です。従来の後方アプローチは共同腱(きょうどうけん)という腱を切っていました。しかし最近は、この共同腱と直下の関節包が脱臼を防ぐため非常に重要であることが分かってきました。従来法と比べてもCPPアプローチは脱臼抵抗性が極めて高く、以前は術後、あれはダメ、これはダメと姿勢や動作の制約がたくさんありましたが、こういった制約が術後ありません。近年は前方系のアプローチがその脱臼抵抗性により脚光を浴びてきました。10年前は前方系のアプローチに興味を持っておりましたが、周囲の素晴らしい股関節外科医はみなオーソドックスな後方系のアプローチを用いており、強く推していました。
そこで何か後方アプローチでも低侵襲な脱臼抵抗性の高い方法があれば、と模索するなかで、この後方MIS(最小侵襲手術)のアプローチに辿りつきました。人工股関節置換術においてはさらにナビゲーションシステムを使用することで、正確な人工関節の設置ができますし、筋腱温存型の後方アプローチは非常に理にかなった手法であると思います。ただ少し分かりにくい面がありますため、今後はその良さを上手く伝えられればと思っています。
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