専門医インタビュー
人工膝関節にはいくつかの種類があります。変形がかなり進行している方の場合、前十字靭帯が消失し、後十字靭帯は拘縮していることが多くあります。そのため、前・後十字靭帯を切離し、その代りに人工関節の形状で靭帯の機能を補うPS型と呼ばれる人工関節が多く使用されています。PS型は、術前の前・後十字靭帯の影響を受けないので、人工関節の形状によって再現性の高い動きが獲得できるのが特徴です。一方で、後十字靭帯が機能しており、変形が重度でなければ、CR型と呼ばれる、後十字靭帯が温存できる人工関節の使用が可能です。後十字靭帯が温存できると、正常に近い膝の動きが再現でき、歩行時や膝を曲げた時の不安定さをPS型よりも抑えられます。現在の人工関節は、CR型やPS型だけでなく、サイズバリュエーションも増えていますので、患者さんの状態に合わせた適正なものが選択しやすくなっています。
単顆置換術
膝の変形が外側になく内側に限定され、前十字靭帯が緩んでおらず、O脚変形が強くないなどの適応を満たしていれば単顆(たんか)置換術が選択されることがあります。単顆置換術は、全置換術に比べ、傷口が小さく骨も内側しか切らないので、侵襲が少なく退院も早い患者さんの満足度が高い手術です。また、サブバスタスアプローチという内側広筋を切らない方法で行えば、さらに痛みの軽減や早期に機能回復が期待できます。骨壊死の方に単顆置換術を行うことが多くありますが、適応条件を満たしている場合でも、すぐに手術になることはそれほどありません。膝の内側だけ悪いからすぐ手術ではなく、まずは保存療法をしっかり行っていただき、ご自身が納得されたタイミングで手術を受けていただきたいと思います。
人工関節の手術を受けるのは、70代くらいの女性が多いのですが、ほとんどの方が骨粗しょう症を患われています。女性の場合、早ければ40~50代で骨粗しょう症になっていることもあるのですが、10年、20年と長期間にわたって骨粗しょう症の治療を受けていない方が多くおられます。一般的には、太もも付け根の骨や腰の骨で骨密度を測定する検査を行いますが、手術を受ける方では、人工関節周囲の骨密度を測定します。骨粗しょう症のリスクが高い方や骨粗しょう症の方には、術前に骨粗しょう症の治療薬を投与し、その後は年に1・2回の定期受診の際に薬を投与し骨粗しょう症の治療を行います。積極的に治療に介入することで、人工関節周囲の土台となる骨がしっかりし人工関節の緩みが軽減でき、全身の骨が丈夫になり骨折予防が期待できます。骨粗しょう症の治療を合わせて行うことで、10年、20年後の人工関節周囲の骨折リスクや再手術率を減らすという報告もあり、高齢化社会の現在、非常に大切な治療だと思います。
ページの先頭へもどる
PageTop