専門医インタビュー
人工膝関節の一例
保存療法を3カ月~半年程度続けて、それでも痛みが取れず改善がみられない場合は、別のアプローチとして人工膝関節置換術などの手術を考えても良いと思います。それ以前であっても、膝の痛みが非常に強く、日常生活に支障が出ているようなケースでは、ご本人が納得できるタイミングで手術に踏み切ることも考えられます。若い人であれば、ある程度時間をかけて経過を見ることもできますが、もともと筋力が落ちている高齢の人では悪化するスピードが増してしまいます。動けないことで余計に筋力が落ち、体重が増えて膝への負荷が増すという悪循環に陥りがちです。体重が増えると心肺機能にも影響が出てくるほか、家に引きこもることで認知機能が低下したり、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)のリスクも出てきます。患者さん一人ひとり状況は違いますので、ご本人・ご家族・主治医でしっかりと話し合い、手術の適切な時期を考えていくのが良いでしょう。
人工膝関節置換術は、傷んだ膝関節を金属でできた人工物に置き換える手術です。大腿骨と脛骨(けいこつ)の一部を切り、傷んで変形した膝関節の表面を取り除いたのち、大腿骨側、脛骨側に人工関節を取り付け固定します。骨質が悪く、より強固な固定が必要な場合には骨セメントを使用します。さらに大腿骨部と脛骨部の間には、人工軟骨の役割を果たすものとして、耐久性の高いポリエチレンを入れます。痛みを起こしていた膝関節そのものを切除するため、術前の痛みが取れること、また変形が進んだO脚の改善を期待できるのがメリットです。
手術は全身麻酔で行います。痛みのコントロールは、近年の人工関節の手術で大きく進歩した点のひとつです。麻酔科医がつき、硬膜外ブロックや神経ブロック、術中のカクテル注射などを組み合わせて、術中・術後を通して効果的に痛みを取っていきます。
人工膝関節置換術は、安定した成績が得られている治療法ではありますが、手術である以上、完全にノーリスクというわけではありません。例えば、非常に稀ではありますが、細菌感染が発生することがあります。感染が起きると、ひどい場合、中を開けて人工関節を取り外して洗浄し、期間をおいてから再置換することになります。また、術後にリハビリが思うように進まなかったり、内科的な合併症が起きる可能性もゼロではありません。人間はだれでも「分からないこと」に不安を感じやすいものであり、客観的なデータをもとに、良いことも悪いことも包み隠さず説明するようにしています。その上で、手術を受けるかどうか、最終的には患者さんとそのご家族の判断となります。ネガティブな情報は一人歩きしやすいため、「人工関節の手術をすると歩けなくなるらしい」など人づてに聞いた話には流されすぎないよう注意が必要です。手術の技術は進化していますので、最近の手術の実情はどうなのか、信頼できる専門医を見つけ、直接話を聞いてほしいと思います。
できる限り感染リスクを抑えるため、虫歯や皮膚の病気、水虫などがある人は事前に治療を済ませてから手術に臨むようにお願いしています。血液に乗って、それらの菌が人工関節に流れるのを防ぐためです。
また術後、入院中に「トイレに行く回数を減らしたい」という理由で水分摂取を控える患者さんがいますが、水分量が不足すると膀胱炎など尿路感染を起こしてしまう可能性があります。脱水症状により血液がドロドロになると血栓ができやすく、深部静脈血栓症のリスクも高めてしまいますので、水分は必要なだけ十分に摂ってください。「トイレの度に看護師さんを呼ぶのが悪いから…」といった気遣いは不要です。
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