専門医インタビュー
岐阜県
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変形性膝関節症は、自覚症状のある方やない方を含めると日本人の65歳以上の半数は罹患していると言われ、人工膝関節置換術は国内で年間約10万件行われています。今回は岐阜清流病院 病院長の松本和先生に、手術支援ロボット等を用いた先進的な手術方法について教えていただきました。
変形性膝関節症に対して、一般的にはまず運動療法、鎮痛剤や関節内のヒアルロン酸注射、O脚が強い方にはインソール(足底板)という靴の中敷きの使用などの保存療法が行われます。特に変形の進行度にかかわらず運動療法は重要です。自分の体力に合わせてできる運動を、毎日5分でも10分でも継続してください。まずは3カ月ほど保存療法を続け、今の治療を続けて効果はあるのかないのかを定期的に確認するようにしましょう。もしも今の治療を続けても効果を感じないようであれば、手術を含めた治療方法を検討するといいでしょう。
手術には、骨切り術と人工膝関節置換術があります。人工膝関節置換術は、傷んだ太もも(大腿骨)とすねの骨(脛骨)を削り、その部分を金属やポリエチレンでできた人工関節に置き換える除痛効果が期待できる手術です。
インソール(足底板)
近年は、手術手技や人工関節そのものが進歩したので、20年以上の耐用年数が期待できます。人工関節を長持ちさせるためには、膝に体重がかかった時に人工関節にも均一に体重がかかる場所に人工関節を設置することが理想的です。患者さんの骨の変形や靭帯の柔軟性などは個々に異なりますが、患者さんのCT画像をもとに骨の立体モデルをパソコン上で作成できるようになっています。手術を行う前にそのモデルを使い、どこに人工関節を設置すればその患者さんにとって適切な場所なのかという計画を立てることもできます。
手術中は計画通りになるよう骨を切るのですが、従来の方法だと精度が医師の経験に依存されることが多く、どんなに経験のある医師でも手ぶれなどによるバラつきが出ることもあります。
人工膝関節全置換術の流れ
手術支援ロボット等のイメージ
⼿術⽀援ロボット等は、患者さんの膝の位置を正しく認識し医師が患者さんごとに計画した骨を正確に切る位置に誘導してくれます。また、手ぶれすることなく⾻を切ることができるので、事前のシミュレーションを再現できるようになっています。
これまでは医師の経験に依存される部分が多くありましたが、モニター上で角度や厚みなどの数値を確認しながら正確に骨を切ることができるようになりました。手術支援ロボット等を使用した場合、人工関節の長期耐用性が期待されるだけでなく、これまでよりも余分に骨を切ることが少なくなっていたり、出血量が減ったり膝関節周囲の筋肉や靭帯への侵襲が少なくなっていることが期待されます。そのため、術後に可動域の改善が早くなったり痛みを訴える方が減ったりしているので、早期回復が期待されるだけでなく患者さんが安心して手術に臨めるのではないかと思います。
特別な機械を使うと費用が高額になるのでは? と心配されるかもしれませんが、手術支援ロボット等の新たな技術を使った人工膝関節置換術にも健康保険が適用されています。手術支援ロボット等は、医師がシミュレーションした場所へ正確に誘導してくれます。しかし、正確にシミュレーションができるようになるまでには、医師に多くの経験が求められます。また、機械なので故障等何らかのトラブルが起こる可能性があります。先進技術による多くのメリットは期待できますが、まずは正確に手術を行える技量や十分な準備が医師に求められます。
変形性膝関節症は、がん等と違い命に直接かかわるものではなく、手術を受けるかどうかを決めるのは患者さんご自身です。しかし、膝に痛みはあるけれど健康に人生を全うしたいと思われるようでしたら、手術は役に立つ治療のひとつだと思います。
近年、平均寿命は延びていますが、膝の痛みのために旅行に行けなかったりスポーツなどを諦めたりしている方もおられるのではないでしょうか。いかに健康に過ごせる時間を延ばすことができる治療法を選ぶかということが大切ではないかと思います。納得のいく治療法を選び、ご自身がやりたいことができる人生を実現してほしいと思います。
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