専門医インタビュー
東京都
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変形性股関節症の治療を続けても、効果を感じにくい方もおられます。そのような時、医師から人工股関節置換術を提案されることがあります。しかし股関節に辛い痛みがあっても、手術後の人工股関節の脱臼リスクなどを懸念されて手術になかなか踏み切れない方がおられます。その一方で人工股関節の手術を受けた方の中には、手術後にアクティブな活動をされいる方が増えていているようです。脱臼リスクをできるだけ抑える手術や使用される機器の進歩について、東京都立多摩総合医療センター整形外科の毛利貫人先生にお話を伺いました。
人工股関節置換術後のリスクとして人工股関節が外れてしまう脱臼があります。
手術方法(アプローチ)は大きく2つに分けられます。その1つが、脚の付け根あたりの皮膚を切り、股関節の前方にある筋肉を切ることなく筋肉と筋肉の間から股関節に到達する前方アプローチです。もう1つは、従来から行われているお尻の皮膚を切り、股関節後方の(お尻にある)筋肉を大きく切って行われる後方アプローチです。脱臼リスクが高まる動作は手術方法によって異なり、前方アプローチでは背伸びをした状態で脚を後ろに伸ばした体勢をとった時などに前側に外れるリスクが高まります。一方の後方アプローチは、股関節を曲げて内側にひねって座った時などにリスクが高まります。また前方、後方アプローチに関わらず激しくぶつかったりするスポーツや水泳の平泳ぎなどは、脱臼の危険性があるので推奨されていません。
人工股関節の脱臼
従来から行われている後方アプローチは、患者さんの身体を真横に向け骨盤を器具で固定した状態で股関節後方の筋肉を大きく切って手術を行います。筋肉を切るので股関節の状態を把握しやすく、変形がかなり進んだ難しいケースにも対応しやすくなります。しかしその一方で、手術中の出血量が増えたり後方を支える筋肉が回復するまで脱臼リスクが高まったりします。また、手術中に骨盤の位置がずれてしまうと人工関節を適正な場所に設置しにくくなることがあり、それが手術後の痛みや脱臼リスクを高めてしまうこともあります。
一方の前方アプローチは、患者さんを仰向けに寝かせた状態で股関節前方の筋肉を切らずに筋肉と筋肉の間から股関節に侵入します。手術は従来法よりも難しくなりますが、前方・後方ともに筋肉を温存できるので、出血量を抑えるとともに脱臼リスクも低減できます。
傷口も後方アプローチより小さくなるなど身体への侵襲が少なくなっており、これまでよりも手術後の回復が早いという点もメリットだと思います。また、仰向けだと骨盤の位置が変わりにくく計画通りの場所に人工関節を設置しやすくなるため、より脱臼リスクの低減が期待できます。従来よりも患者さんのメリットが多く期待できるので、近年では前方アプローチで手術が行われるケースが増えています。
以前は手術前に撮影した患者さんのレントゲン画像をもとに、人工関節を設置する場所や使用する大きさなどの計画を立てていました。しかし、曲がっている骨の大きさを正確に計測することは難しいので、精密な計画を立てることは難しかったです。近頃は、患者さんのCT画像を使用してパソコン上に3次元の骨のモデルを作成することができます。これまでよりも正確に骨の大きさや角度を計測できるので、人工関節が脱臼しにくい場所を決めることができます。
また設置場所や角度などをリアルタイムで教えてくれる色々なタイプのポータブルナビゲーションが普及しています。それによって、計画通りの場所に人工関節を設置しやすくなっています。比較的アクティブに活動される方や股関節の可動域が広い方、手術で腰の骨(腰椎(ようつい))を固定された方は、そうでない方と比べて脱臼リスクが高いといわれています。そのような方に対しては、従来よりも脱臼しにくくなっている前方アプローチとポータブルナビゲーションの使用を組み合わせることで、リスクを低下させることが期待できます。
人工股関節を正確に設置することは、脱臼リスクの低減だけでなく人工股関節の耐用性にも影響を与えます。人工関節の脱臼や耐用年数を気にして手術を躊躇される方もおられますが、このような進歩が安心感につながるのではないかと思います。
従来の後方アプローチだと、お風呂に入る時や床にあるものを拾う時など注意しないといけない姿勢や禁止される動きなどがたくさんあり、患者さんはそれらをストレスに感じていたと思います。前方アプローチでは、術後しばらくすれば日常生活での行動制限はほぼなくなるので、これまでのようなストレスを感じずに日常生活が送れると思います。また、手術を受けた方の中にはテニスや登山をされている方もおられます。股関節の痛みのせいで諦めていたことが手術を受けて復帰できた、というお話しを伺うこともあり医師にとっても喜ばしいことです。
股関節に痛みや違和感があれば、まずはお近くの整形外科にご相談いただき、ご自身がどのような状態で、どのような治療法があるかを知ってほしいと思います。変形性股関節症と診断されたからといって、いきなり手術となることはありません。まずは、リハビリや痛み止め薬の使用、減量など手術以外の治療法を徹底的にやってみましょう。
その治療を続けてもどうしても痛みが取れなければ人工股関節置換術という選択肢もあります。不安なことや分からないことがあれば股関節を専門にする医師にご相談いただき、ご自身が納得できる治療を行ってほしいと思います。
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