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専門医インタビュー

人工股関節の脱臼リスクを高める原因は手術方法や先進技術によって改善されています

静岡県

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日本整形外科学会専門医、日本人工関節学会認定医、日本骨折治療学会評議員、日本股関節学会会員、日本航空医療学会指導医、がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了
専門分野:股関節外科

この記事の目次

近年は人工股関節の手術法や使用する周辺機器の進歩により、従来よりも脱臼リスクを抑えられるようになっているようです。リスクとなる原因や予防する手術方法などについて順天堂大学医学部附属静岡病院 整形外科准教授の神田 章男 先生に教えていただきました。

人工股関節の脱臼リスクを高める原因には、どのようなものがありますか?

人工股関節の構造

人工股関節の構造

脱臼リスクが高まる原因には、股関節の周囲にある筋肉や靭帯など軟部組織の状態と人工股関節の設置角度があります。
従来は、股関節の後ろ側にある筋肉や大腿骨(だいたいこつ)と骨盤をしっかりとつないでいる関節包靭帯(かんせつほうじんたい)を大きく切って手術が行われていました。そのため組織が回復するまでの期間は特に脱臼に注意が必要でした。また日常生活では、股関節を深く曲げたり脚を組んだりした時に脱臼するリスクが高まるので、手術後に禁止される動きや姿勢が多くありました。
人工股関節のカップは、前側に15°、外側に40°開いた位置にできるだけ近づけて設置できれば、脱臼しにくく性能を発揮しやすくなるといわれます。その角度になるように、以前は色々な手術器具を使い医師が目で確認しながら角度を計測していました。しかし手術中に患者さんの位置がずれて、計測した角度どおりに人工股関節を設置できなくなることで、脱臼リスクを高めてしまうことがありました。

どのようにして脱臼リスクの原因を改善できるようになっているのでしょうか?

前方アプローチと後方アプローチ

昨今は手術方法などが進歩しており、これまでの原因を改善できるようになっています。
お尻側から手術する方法(後方アプローチ)は、お尻の筋肉を大きく切るため、人工股関節が脱臼するリスクが高いのですが、今は筋肉をできるだけ小さく切り、切った筋肉も縫い合わせて早く修復するよう工夫することにより脱臼リスクを抑えています。
近頃は、股関節の前方から筋肉を切らず股関節に侵入する手術(前方アプローチ)が増えています。前方アプローチの場合、お尻の筋肉が温存できるので後方に脱臼することが少ないと言われています。それだけでなく、切った関節包靭帯を専用の糸で縫うことにより、人工股関節の安定性が高まり前方への脱臼リスクが低くなります。
人工股関節を正確に設置する技術も進歩しています。人工股関節は受け皿となるカップの中にライナーが埋め込まれ、そこに骨頭の代りとなるボールが組み合わさり滑らかに動かすことができます。この頃は、手術中にカップを設置する角度をリアルタイムで確認できるナビゲーションシステムの普及によって、正確な角度を把握できるようになっています。
加えて人工股関節そのものも進歩しています。人工股関節を動かせる範囲に限界があるので、股関節の可動域が広い方のほうが脱臼リスクが高くなることがあります。ところが、ライナーを動かすことでこれまでよりも広い可動域を確保できる人工股関節が開発されたので、そのような方でも脱臼リスクを軽減できるようになっています。
このような進歩を組合せるとともに、手術中に股関節を深く曲げても脱臼しないかという確認を行うので、従来よりも脱臼リスクが大幅に軽減しています。

脱臼リスクが減ったことで、患者さんにはどのようなメリットが期待できますか?

骨切り術

骨切り術

患者さんは日常生活での制限が少なくなったおかげで、テニスやダンスをされたり富士山に登ったりする方や、従来の方法では禁止されていたボーリングなどの軽いスポーツを行えるようになったことがメリットの一つだと思います。
正確に人工股関節を設置できれば脱臼リスクを低減できるだけでなく、人工股関節の長持ちが期待できる点もメリットだと思います。また近年はライナーの材質として使用されているポリエチレンの性能が向上してるので、これまで以上の長持ちが期待できると思います。
一方、変形性股関節症は、高齢の方だけでなく若い方でも発症することがあります。比較的年齢が若ければ、骨を切って形を変えご自身の股関節を温存する骨切り術で治療することが多くあります。けれども、今は人工股関節が長持ちするため、若い方でも長い間良好な状態を維持することが期待できることがメリットです。そのため人工股関節手術を希望されるケースが増えています。

退院後のリハビリや日常生活において気を付けることはありますか?

骨切り術

入院期間中には、筋肉を回復させるための、または正しく歩くためのリハビリを行います。
特に高齢の方は、入院期間中のリハビリだけでは十分に筋力が回復しないことがあるので、専門の病院へ転院されて1~2カ月しっかりリハビリをされる方もおられます。
手術を受ける方の中には、悪くなっているほうの脚の長さが短くなり骨盤や腰を曲げて歩くので腰痛も患っている方がおられます。歩き方の癖を直すリハビリも行うので、正しく歩けるようになってくると腰痛も緩和される方もおられます。
前方アプローチで人工股関節の手術を行った場合、日常生活における動きや姿勢への制限は少ないです。ただし、転倒して人工関節周囲で骨折しないように気を付けてください。けれども転倒しないようにご自宅でじっとしているのは逆効果です。
筋力が衰えてしまうと、かえって転倒リスクが高まるので、積極的に運動をするように心がけてください。それにより筋肉や骨が鍛えられ、転倒しても上手に対応しやすくなると思います。
退院してからスポーツなど色々なことに取り組まれている方がおられますが、定期的に人工股関節やご自身の状態を確認するために定期的に受診することは忘れないようにしましょう。

股関節の痛みに悩んでいる方へメッセージをお願いします

股関節に痛みがあっても手術になると思って受診をためらい続けると、変形が早く進行することがあります。変形が進み筋力が衰えてから手術を受けると、身体へのダメージが大きくなるだけでなく、筋力や可動域を改善できるまでに時間がかなりかかることがあります。
股関節の痛みで日常生活や仕事に支障が出てくれば、早めに股関節を専門にする医師にご相談ください。この頃は、できるだけ人工関節の手術にならないようにする色々な治療法があります。また、定期的に受診できればご自身の状態を確認できるとともに、その時々の症状や状態にあわせた治療を選択しやすくなります。痛みがあれば早めに専門医に相談し、できるだけ股関節の痛みに悩まない生活を送ってほしいと思います。


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