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専門医インタビュー

~痛みなく運動することができる脚・腰は健康の基本~除痛だけでなく社会復帰を目的にした人工膝関節置換術

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宮崎県

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日本整形外科学会認定整形外科専門医

この記事の目次

人工膝関節置換術について教えてください。

人工膝関節置換術後のX線(左)と人工膝関節の一例(右)

人工膝関節置換術とは、変形性膝関節症などの疾患によって損傷・変形した膝関節の表面を取り除き、 人工の膝関節に置き換える手術です。人工関節は、関節本来の滑らかな動きを再現できるよう、大腿骨部・脛骨部・膝蓋骨部の3つの部分が組み合わさってできています。大腿骨部と脛骨部は金属製ですが、その間に耐久性に優れた硬いポリエチレンでできたプレートを挟み、 これが軟骨の代わりになります。手術時間は50分~1時間程度、入院期間は約3~6週間、また傷口は10~12cm程度です。人工膝関節置換術は日本で年間約7万件も行われている手術であり、すでに一般的な治療法といえるでしょう。医療費は公的医療保険が適用されますし、さらに高額療養費制度の対象にもなっています。
人工膝関節置換術で重要なことは、手術によって単に痛みを取るだけでなく、社会復帰に向けた環境を作っていくことだと考えています。手術の際に支払った医療費の金額を取り戻せるくらいの価値を患者さんにもたらすことができるかどうか、常々考えています。金額だけを見た場合、痛いまま我慢してずっと病院に居続ける、介護保険を使う、家族が患者さんの送り迎えをする、といった方が安上がりかもしれません。しかし、患者さんが社会的に自立すれば、新たな価値が生まれますし、医師としてもそこを目指すべきだと考えています。

患者さんの環境は様々だと思いますが、特に気を付けられていることはありますか?

患者さん向け冊子。約70ページあり、患者さんがやるべきことや必要な検査などを纏めている

経済的な問題がある人もいれば時間的な問題がある人、家族の方々の事情など、皆さん様々です。患者さんの環境に合わせて、その人が一番いい状態で一番いい条件で手術できるように組み合わせていきます。当院では、患者さん向けに術前術後の流れを冊子にしました。内容としては、患者さんが当院に来てから「どういう順番で」、「どういうことを考え」、「どういう質問に答えるのか」などを記載しています。また、入院して手術後1日目、2日目に自分のやるべきことや必要な検査などを纏めています。病棟でのカルテ上はクリニカルパスという中で動いていきますが、それとは別に患者さんに渡す冊子については、毎日自分がやらなければいけないことをチェックし、まるで絵本をめくるように、「次はこれか」と分かりやすく誰でも理解できるように作りました。ぼろぼろになるまで読まれる患者さんも多くいらっしゃいますし、手術に対する安心感に繋がっているのではないでしょうか。

最近は、医師側にも技術の向上が求められていると聞きます。

外科医の技術習得として、ラーニングカーブ(技術習得曲線)という概念があります。例えば、手術を重ねるうちに手術時間が短くなったり、出血量が減ったりするなど、手術手技の習得度合いが上がっていきます。このラーニングカーブを表現する際、最近ではどの文章でも「手術件数」で答えようとします。もちろん手術件数は手技の習得には欠かせないのですが、それよりも大切なのは、自分の患者さんを1年、2年・・・と継続的に追いかけていき、その人の生活環境や痛みの症状、レントゲン所見などを充分に把握した上で、それらを次の手術にフィードバックしていくことだと考えています。「この人が痛いのはなぜか」、「レントゲン所見は悪くないのに、なぜ痛がるのか」、「急に痛がり出した理由は何か」など、得られた知見を今後の手技に反映させていくことが、医師の技術向上に繋がっていくと思っています。

人工関節を入れ替える「再置換術」は、やはり大変なのでしょうか?

以前に比べれば、再置換術で使用する機械や環境は整っているため、「人工膝関節再置換術」は極端に難しい手術ではなくなりつつあります。むしろ、再置換術をした後の「再々置換術」の時にどうするかが、現在のテーマといえるでしょう。まだ実例は多くありませんが、機械や環境は確立されつつあります。このような背景から、今は若年者にも人工関節手術を勧めることが容易になりました。再々置換術ではポリエチレンの部分だけではなく、金属部分も含めて全部入れ替えますので、再置換の場合よりも手術時間は長くなります。手術時間としては、再置換術が1.5時間、再々置換術が2時間くらいです。

再置換術を行う可能性を考慮した、自家骨を冷凍保存するボーンバンク

なお当院では、70歳代以下の人で、手術の際に骨移植に使える骨が残っている場合には、再置換術を行う可能性を考慮して、その人用に冷凍保存(自家骨保存)をしています。具体的には、一般にいうボーンバンクではなく個人用としてボーンバンクの設備を導入し、運用しています。保存する骨のサイズは、多い場合でゴルフボールよりちょっと大きいくらいでしょうか。保存期間は、初期に保存した方の骨で約10年になります。学会で示されているガイドラインでは保存期間は5年間ですので、骨の保存と感染対策に十分に配慮して管理していくとともに、今後はその骨がどうなっていくか検証していく予定です。


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