専門医インタビュー
東京都
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再置換術で取り出された人工膝関節(右)
再置換術で使用する人工
膝関節の一例。
骨欠損を補填するブロッ
クや固定を高める延長ス
テムなど、変形が厳しい
症例にも対応できるよ
うデザインされている
当然ですが、患者さんは初回の手術の時よりも歳をとっていますし、既に人工関節が設置されている状態からの手術になるので、再置換術と初回の手術とでは少し流れが異なります。しかし、気をつけるべき点や合併症は初回の時と同様です。再置換術の方が、特別に合併症のリスクが高いということなどもありません。再置換術の流れですが、まずは設置されている人工関節を抜かなくてはなりません。挿入してから年月が経っているほどインプラントが骨に馴染んでいるので、骨から剥がすのに手間を要します。周辺が炎症を起こしていれば、その治療も必要です。悪い組織は取り除いて患部を洗浄(デブリードマン)してから、新しい人工膝関節を設置します。再置換術の手術時間は通常3時間程度、入院期間も初回よりも長めになります。なお、再置換術を専門的に行うためには、通常とは別の医療体制が必要になります。外来や病室、リハビリテーションも初回の患者さんと同じというわけにはいきません。病院側の受け入れ体制も再置換術専用に整える必要があります。
特に神経を使い時間をかけているのが、再置換術の術前プランニング(術前計画)です。通常では、MRIやCTなどで患部の状態を評価するのですが、当院では、多方向から撮影した画像を再構築し立体画像や任意の断面を表示できる、「トモシンセシス」という高精度の画像診断システムを導入しています。トモシンセシスを活用すると、一般のレントゲンでは判別できないような、ごく微小な部分まで捉えることができます。具体的には、人工関節の緩んでいる部位や骨欠損の部位などを評価し、再置換術で使用するインプラントの選択や骨移植の量を決めるのに役立てています。もちろん、中には実際に切開してみないと分からないこともありますが、再置換術を必要としている原因を、術前にできる限り正確に特定することができれば、侵襲を少なくし患者さんの負担を軽減することも可能です。この他、手術内容に応じた術後管理や感染対策についても細心の注意を払い、術前計画を緻密に設計することがリスクの低減に有効だと考えています。
ボーンバンクでは-80℃の状態で30年間保存
はい。たとえ骨が溶けてしまっている場合でも、骨移植や人工骨、特殊な人工関節などを使うことで手術は可能です。しかし、金属や人工骨などを体内に入れるのは人体にとって大きな負担です。また、他人の骨を移植すると、炎症や感染を引き起こすリスクもあるでしょう。このような点から、当院では独自のボーンバンクを設置しています。インプラントが販売終了になっている場合や骨欠損が高度なケースに、ボーンバンクの骨を使用することで、患者さんの体に負担をかけず、骨欠損の処置を行うことが可能になりました。ボーンバンクでは、初回の人工膝関節置換術で削った骨をマイナス80℃の冷凍冷蔵庫に30年間保存しています。マイナス80℃で保存すれば、細胞は死にませんが細菌ウイルスは死滅し、移植時の拒絶反応は出なくなります。手術を受けた全例の骨を保存していますので、もし30年間のうちに再置換術が必要になったときには、自分の骨を移植することができますし、幸いにして使わずに済んだ人の骨は他の人に役立てることも可能です。
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