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専門医インタビュー

変形性股関節症の治療法 ~人工股関節置換術の成功のカギは、術前から行う筋力訓練~

この記事の専門医

千葉県

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千葉大学大学院修了後に君津中央病院を経て、2014年4月から東千葉メディカルセンターに整形外科特任助教として赴任、現在に至る。
【専門分野】関節外科、骨折治療 【資格】医学博士、日本整形外科学会専門医 【所属学会】日本整形外科学会、日本股関節学会、日本人工関節学会、日本骨折治療学会

この記事の目次

人工股関節置換術とはどういう治療法ですか?


人工股関節置換術は、痛みを取り除き正常な股関節の動きを取り戻すことが期待できる治療法です。傷んでいる関節の表面を薄く削り取り付け根から骨頭を切り取った後、深いお椀の形をした臼蓋側に代わりとなる金属とポリエチレンでできているカップを固定します。また大腿骨側には、金属製のステムを差し込んで固定します。ステムを大腿骨に固定する方法には、固定材(骨セメント)を使用する間接固定法とセメントを使用せず直接インプラントを固定する直接固定法があります。近年はセメントを使わないやり方が主流になっていますが、そのどちらが適応されるかについては、患者さんの年齢・活動レベル・骨の状態などについて総合的に判断した上で決定します。インプラントは、何種類も存在するものの中から、患者さんそれぞれの骨盤臼蓋と大腿骨の大きさや形状に合ったものを選んで使用します。

手術はどういう流れで行われるのでしょうか?

人工股関節置換術を行うことが決まったら、まずCTを撮って、どこからどういう角度で、どんなインプラントを挿入すればいいか、術前計画を入念に立てます。具体的には、3Dテンプレートを使用して、PC上で手術の設計図を事前に描きます。この設計図をもとに、左右の脚の長さを整えるためには、どこをどう切って骨にどのように入れたらいいのか、どのサイズのインプラントをどのくらいの深さに入れるか、設置角度は何度くらいが適切かなどのシミュレーションを行います。ここまで計画をしっかり立てて手術に臨みますが、実際は筋肉の緊張などによって計画通りに行かないこともあるため、手術は計画に適切な修正を加えながら行います。術前にきちんとした設計図を描く、術中にはできるだけその通りに施術をしさらに微調整を加える、という手順で手術を行っています。変形性股関節症の場合、股関節は左右ともに悪くなる人もいますが、片側を人工股関節にするだけでもう片側は進行しないで済むことも珍しくありません。人工股関節置換術をして「きき脚(軸になる脚)」をきちんと作ってあげれば、もう片側は手術を回避できることも少なくないのです。高齢の患者さんにとって両側同時に手術するのは大きな負担ですので、まずは片側の手術を行い、しばらく様子を診てそれでも痛みが残っている場合に、もう片側の手術を行うようにしています。

3Dテンプレートを使用した術前計画

CTデータをベースに、3次元的にステムとカップのサイズ選定や設置位置検討などのテンプレーティングを行います。また、術前計画で設置したステムとカップを整復状態にして可動域のシミュレーションも行います

手術時間や入院期間などについて教えてください。

人工股関節置換術後のX線 正面(左)、側面(右)

手術は全身麻酔と硬膜外麻酔を使って行いますが、人工股関節置換術は既に確立されている手術ですから、決して難しい手術というわけではありません。手術時間はおよそ100分が目安でしょうか。また、一般的に人工股関節置換術は出血量が多いといわれていますが、事前に自分の血液を貯めて手術当日に輸血するなど(自己血輸血)、万全の準備をして行いますので心配は要りません。術後は手術の翌日から車イスに乗り、2日後からは歩く訓練を始めます。手術では骨を切っているので最初は痛みますが、術後1週間もすれば委縮していた筋肉が柔らかくなり、一人で歩けるようになります。入院期間は3週間程度で、早ければ術後2週間で退院する人もいます。自分の脚で歩いて帰ることができるというのが退院の目安です。なお、股関節の切開方法(アプローチ)にはいくつかの種類があり、患者さんの関節拘縮、脚長差、肥満の程度により前方アプローチと前側方アプローチを使い分けています。また、大腿骨の骨切りが必要であったり、手術の難易度がより高かったりする場合には、太ももの真横(側方アプローチ)から切っていくこともあります。基本的には、できるだけ筋肉や腱などの周辺組織を切らないように、筋肉と筋肉の間を入り込んでいく方法を採っています。

手術に年齢制限はありますか?

人工股関節の耐用年数は20~25年といわれています。手術は股関節の変形が強く、痛みが強く日常生活も困難な末期症状の人が対象となりますが、できる限り入れ替えの再手術をしないためにも60~65歳で行うのが一般的な考え方になっています。ただ実際は、活動性がある年齢で人工関節の耐用年数と相談して手術の時期を決めるのが理想でしょう。痛いのを我慢して年齢を重ねるよりも、早い時期に手術をすることで快適な生活を取り戻した方がいいケースも沢山あります。もし再置換することになったとしても、その間きちんと定期検診を受けている限り必要以上に大がかりな手術にはなりません。いずれにしても、いつ手術に踏み切るかは医師と十分に相談をして決めることであり、医師と患者さんの信頼関係が大事になると思います。


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