専門医インタビュー
愛知県
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感染予防のため、手術は特殊な手術服を着用してバイオクリーンルームで行います
手術の際に一番気をつけなくてはいけないのが、血栓症です。人間の血液は出血をしたら凝固するようにできているため、術後安静にしている時間が長いと、血流が悪くなることで血管内に血の塊ができることがあります。これを血栓といい、血栓が剥がれて肺や心臓、脳などに流れていって詰まってしまうと、塞栓症や心筋梗塞、脳梗塞の原因になります。血栓症を予防するためには、術後からすぐに動いてもらうことが大切です。また、感染症にも気をつける必要があります。人工関節はあくまでも「人工物」ですので、体内の細菌が患部に付着すると、感染を起こすことがあります。人工関節には血流がないため、菌が運ばれてきて付着すると、抗生物質などで除菌することができません。感染症は手術に必ず付きまとうリスクで、感染が起こったら人工関節を入れ替える手術が必要になることもあります。術中の感染予防策として特殊な手術服を着用してバイオクリーンルームで手術を行うのはもちろんですが、術後長い時間が経ってから、虫歯菌や水虫菌などの体内の菌が運ばれてきて炎症を起こすことも考えられます。退院後の全身の健康管理は非常に重要です。
患者さんから届いた手紙や写真の一部
太ももに筋力がついていれば、術後の回復は早いことが分かっています。退院後は日常生活が不自由なく送れるよう、手術翌日から歩いてトイレに行くことから始めて、入院中に筋肉を回復させるリハビリをしっかり行います。退院は、一本杖で自由に歩けて階段の昇り降りができるようになるのが目安です。入院期間は半置換術の場合は5日、全置換術の場合は10日で退院するのが普通です。「正座をしてはいけない」とよくいわれますが、あまり気にしなくてもいいと思っています。特にやってはいけないことはありません。スポーツについても、卓球やバドミントン、テニスなどを楽しんでいる人たちはたくさんいます。中には、歳をとってから始めたスキーに夢中になり、変形性膝関節症の痛みで断念されたのですが、思い切って人工膝関節置換術を受けた後、再びスキーを楽しんでいる患者さんもいます。正座やスポーツを勧めることはありませんが、そのリスクを学習して頂いた上ですることを止めたりはしていません。
正しい杖のつき方
術後3カ月~半年は、杖を使って歩くことをお願いしています
手術前から取り組んでいた3つの保存療法「減量」、「筋力強化」、「正しい歩き方」は、退院後も意識して続けてもらいます。その上で最初の3カ月から半年は、転ばないように杖を使って歩くことをお願いしています。半年経ったら人工関節はしっかりと固定されてきますので、走っても大丈夫です。ほとんどの患者さんは、1カ月も経つと痛みがなくなり、「もう治りました」と上機嫌です。退院後は、最初は半年に1回、その後は1年に1回、定期的にきちんと検査を受けることをお願いしています。レントゲンなどで人工関節の状態をチェックする他、必ず体重を測定します。
人生において時間は有限です。楽しく元気に歩ける年月は決まっています。車も10年乗ったらタイヤを取り換えるし、エンジンも交換する必要があるかもしれません。人間も全く同じです。年齢を重ねれば、それなりのメンテナンスが必要になってきます。人体の中でも膝、股関節、腰は、年齢の影響をより受けやすい部位だといえるでしょう。しかし、適度な体重で筋力を保ち、日頃から歩き方に気をつけていれば、大事に至ることは回避することができます。もし変形性膝関節症だと診断されたら、まずは3ヶ月間、筋力トレーニングを含む保存療法を頑張ってください。人工膝関節置換術は、今まで苦しんでいた痛みを取り除き、劇的に膝が軽くなる素晴らしい治療法です。しかし、血栓症や感染症などのリスクがあるのも事実です。また、耐用年数も20年から30年へと伸びており近年は再置換術の技術も進歩していますが、やはり再度手術を受けるということは患者さんにとって大きな負担でしょう。私は、手術はできる限りしない方がよいと考えています。膝痛における最善の治療法は自然のまま手術をしないで痛みが取れる方法であり、二番目が筋肉を全く切らずに低侵襲で行うMIS人工膝関節置換術だと考えています。手術を受ける前にもう一度、保存療法を本気で試してください。
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