専門医インタビュー
変形性股関節症は、大まかに前期・初期・進行期・末期の4つの病期に分類されています。痛みや変形が軽度の段階であれば、まずは薬物療法や減量、リハビリといった保存治療を行います。特に患部を温めて行うストレッチ体操は、進行を抑制する効果が高いといわれています。股関節は比較的身体の奥の方にあるので、リハビリ施設などで電気治療を受けて深部まで温めてから行うとより効果的です。リハビリ施設に通うのが難しい場合は、自宅で行っても大丈夫です。その場合は、受診した時に正しいストレッチ法などをしっかりと指導してもらいましょう。痛みや変形が進むと手術を考えることになりますが、年齢が若く変形が中程度まで(前期、初期から進行期の軽度)の人であれば、「寛骨臼回転骨切り術(RAO)」という関節温存手術を行うことで痛みを軽減し、症状の進行を防ぎます。一方で変形の度合いが進行期から末期にかけては、やはり「人工股関節置換術」が選択肢の一つになります。ただし、人工股関節置換術は症状が本当に進行した場合の「最終手段」的な治療法です。手術の時期は、痛みの程度や仕事・家庭の状況などを考えた上で決めるのがいいでしょう。
寛骨臼回転骨切り術(RAO)
寛骨臼を外側に移動させ骨頭を支えられる臼蓋を作ります
股関節の屋根の部分である臼蓋と大腿骨頭のかみ合わせを矯正する手術です。具体的には、臼蓋を半球状にくり抜き回転させることで骨頭を十分に支えることができる臼蓋を作ります。臼蓋の屋根が大きくなり体重のかかる面積が拡大することで、一部分に集中していた体重が臼蓋全体に均等にかかるようになり、また臼蓋がしっかりと大腿骨頭を覆うようになるため、痛みが改善されます。手術時間は患者さんの体格にもよりますが、2時間~3時間です。入院期間は約2ヵ月間で、適応年齢は骨の強度や術後の骨癒合能力などを考えた上で50代までとしています。比較的若い人に行う手術ですから、学校、職場、家事、子育てなどを考えると入院期間の長さがネックになることも多いのですが、寛骨臼回転骨切り術は症状が進行してからでは効果が低減するので、保存治療で粘って様子をみるのではなく、ある程度早めに手術することをお勧めしています。早期の段階でこの手術を受けることができれば、生涯人工関節が必要のない生活を送ることも可能です。実際、「もう少し早く決心してもらえれば、寛骨臼回転骨切り術で十分に対応できたのに」と残念に思うケースも少なくありません。ただし、的確な適応判断と手技が必要な手術ですから、ある程度の症例数がある医療機関で行うのが安心でしょう。
人工股関節置換術は、関節の軟骨がすり減り損傷してしまった股関節を金属やポリエチレンなどでできた人工の股関節に置き換える手術です。手術は前外側アプローチを独自に改良した方法で行っています。流れとしては、まず大腿部の外側の皮膚を斜めに10cm~15cm程度切開し、筋腱の切離を最小限にとどめて股関節を露出させた上で股関節の骨を削ってインプラントを設置します。設置後にインプラントの動きを確認して特に問題がないようであれば、筋膜と皮膚を元通りに縫合して終了です。
人工股関節の構造
MIS(最小侵襲手術)という筋腱温存での手術もおこなっております。当院でのMISの方法はALS(仰臥位前側方進入術)と呼ばれる手法です。MISは術後回復の早さなどのメリットもありますが、人工股関節置換術で最も重要なポイントは、インプラントを安全かつ正確な位置に設置することであり、MISにこだわり過ぎず必要に応じて最小限の筋腱切離はおこなうべきとも考えています。手術時間は通常1時間20分~1時間30分です。出血量は多くの場合200cc~400ccで、術前から採血しておいた自己血を輸血します。手術前に患者さんに説明する際、インプラントの耐用年数を15年~20年と伝えていますが、近年の手技の高度化とインプラントのデザインや素材の進化を考えると、今後は20年~30年は持つのではないかと思います。従って将来的には、60代後半で人工股関節置換術を行えば、余程のアクシデントがない限り生涯に一度の手術ですむでしょう。
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