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専門医インタビュー

人工股関節の再置換手術について専門医に伺いました

  • 鍵山 博士先生
  • 佐野記念病院 顧問 人工関節センター長
  • 072-464-2111

大阪府

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日本整形外科学会専門医

この記事の目次

人工股関節手術によって多くの患者さんが快適な日常生活を取り戻されます。しかし高齢化が進むなか、二度目の“再置換手術”を受けることになり、一度目とは違う不安を抱かれる場合があるようです。
一度目の手術と再置換手術はどのような点が違うのでしょうか。また日常生活や手術前後の注意点は?
鍵山博士先生に伺いました。

人工股関節再置換手術はどのような手術ですか?

文字通り、一度入れた人工股関節を取り出して、新しい人工関節をもう一度装着する手術のことを言います。取り外しのできる部品交換だけの場合もあります。

具体的には、大腿骨頭の部分(ヘッド)の大きさや設置する高さを調節するとか。大腿骨頭を受ける骨盤側のポリエチレン等でできた部分(ライナー)なども取り外して交換することができます。

人工関節全体の耐用年数としては、20年以上持つケースが多いのですが、個人差がありますので、10年ほどで入れ替える場合もあります。たとえば体重が2kg増えると関節にはその5倍の10kg負担がかかると言われており、人工関節の使用に不具合が生じる場合があります。ですので、体重の増加は、再置換手術のタイミングが早まるひとつの大きな要素と言えるでしょう。

また一回目の手術のあと、まだ無理をしてはいけない時期に極端にハードな農作業をするなど活動量が多い場合も原因のひとつとなり得ます。しかし、体重の増減、活動量、生活の様式などいろいろな要因が複合的に重なっている場合が多く、再置換手術の要因を「これ」とひとつに特定することはむずかしいです。

どのような場合に再置換手術を行うのですか?

多いのは、人工関節と骨との間にゆるみが出るケースです。一回目の手術の際、最初は自分の骨と金属性の人工関節を物理的に固定しますが、時間の経過とともに骨ができてよりしっかりと固定されます。数週間ほどで自然にくっつくわけですね。しかしそれが何らかの理由でゆるんでくるのです。セメントを使って固定した場合でもゆるみが生じる場合はあります。

また、股関節の動きをつくるヘッドとライナーの間の摺動面(しゅうどうめん)は、ライナーの摩耗量が多いとその小さな摩耗粉が飛び散ります。それが骨と人工関節の間に入り込むと、骨溶解(こつようかい)といって少しずつ骨が溶けてなくなっていくという現象が起こってゆるみが出てくるのです。

ただ、ゆるんでも「痛い」といった自覚症状がない場合が多く、発見が遅れて自分の骨の多くが溶けてしまうと、再置換手術はよりむずかしくなります。再置換手術は健康な骨がたくさん残っているほうが、固定しやすく条件としては良いので、定期検診が非常に大切であり、患者さんには、少なくとも半年に一度は病院に来るようにお願いしています。

再置換手術に年齢制限はありますか?

手術の年齢制限はありませんが、手術を行うには、ふたつ条件があります。ひとつは、全身の状態がよいこと。心電図異常、高血圧、糖尿病といった問題のある場合など、全身をトータルにみて、手術に耐え得るコンディションかどうかの判断が必要です。
また感染症がある場合や認知症があって術後の指示を守りにくい場合も慎重に判断します。しかし先延ばしにするほど手術の条件は悪くなりますから、可能な限り手術ができるように検討します。

もうひとつの条件は、患者さん自身にリハビリの意欲があることです。初回の手術の際、「将来的に再置換の手術をする場合もあり得る」ということは必ず説明するようにしています。それをしていないと、いざ必要という時に再置換手術をスムーズに受け入れていただけません。
また初回の手術での満足度が高いことも大切です。「痛みがなくなった」「思ったよりリハビリが大変ではなかった」とスムーズに日常生活へ戻られた方は、「そろそろ取り換えた方がいいですね」と再置換手術をすすめた際にも、問題なく受け入れてくださいます。そういった意味でも、初回の手術を問題なく行い、患者さんにリハビリへの意欲を持っていただくことが重要と思います。

初回より難しい手術になりますか?

再置換手術では、初回の手術で入れた人工関節をとりはずすという工程があります。いったん骨にくっついたものを丁寧に離すわけですから、その分、手技的には綿密で慎重さや根気強さを要求され、時間もかかります。

そして骨盤側と大腿骨側が接して摺動(しゅうどう)する部分から骨が溶けていきやすいので、進行の具合によっては、新たな人工関節を更に延長して固定するなどの工夫が必要となります。また初回のときには患者さん自身に「痛い」という自覚症状がありますから進んで病院に来てくださいますが、再置換の場合は自覚症状がないために放置されやすいです。受診したときにはすでに骨の状態が悪くなっていて、たとえご本人に痛みがなくても手術をすすめることもあります。ご自分の健康な骨が多く残っているほど条件はよくなりますので、やはり定期検診が大切ですね。

変調がある場合は、レントゲンだけでも先行してわかりますし、早期発見できればライナーという部品の交換だけですむ場合もあります。反対に放置してご自分の健康な骨が少なくなると、脆くなってしまった骨にしっかりと人工関節を固定しなければならず、技術面でも工夫が必要となり時間もかかります。もちろん医師は、手術前にさまざまなトラブルを想定し、綿密な計画を立てて臨みますから安心していただきたいですが、基本的には半年に一度、痛みがあればもっと早く受診してください。

再置換手術後、特に気を付けなければならないことはありますか?

一般的に再置換手術後に脱臼を起こすリスクは、初回の手術後よりも高まると言われています。リハビリの際に指導されるはずですが、横座りのように脚を内側にひねるとか、体育座りのように曲げた脚をグッと胸に引き寄せるとか、あぐらをかくなど、極端にひねる動作や姿勢はとらないようにしてください。

正座は、首から腰までが柔軟な人であればあまり心配ないですが、硬い人は脚の付け根に負荷がかかりますのでおすすめはしません。また初回の手術は60歳代で受ける場合が多く、再置換手術を受けるのは80歳以降。高齢の場合は骨が弱いので、骨折には注意してください。

おすすめするのは水中ウォーキングです。下半身全体を動かし、あまり体重がかかることなく脚全体の筋肉をつけられます。散歩も1日に30〜40分くらいなら大丈夫です。使わないと筋力はどんどん弱くなるので適度に使うことが大事です。

しかし、脚をよくするために「〜しなければ」ということは続かないしおすすめしません。リハビリのメニューもありますが、日常生活で普通に使ってもらうのが一番。ご高齢の患者さんにとっては、それだけでもかなりの運動量になっています。そして散歩も、イベントに出かけるなど、何かしらの遊びの要素があって楽しみを見出してもらうほうが長続きするでしょう。

股関節の痛みに悩まれている方々へメッセージをお願いします。

股関節、膝関節など関節の痛みがある場合、ダイエットや体重管理、筋力アップなどで様子がみられる間はともかく、半年、一年と痛みが続くようなら我慢しないで受診してください。人工関節の手術もありますし、痛みがとれて喜ばれる方がたくさんいらっしゃいます。

ほとんどの場合、一回の手術ですむ確率が高く、私の患者さんのなかには、人工関節置換術をして30年になる方もいます。その当時の技術と器材で30年ですから、今の技術と器材ならさらに長く使用できる可能性があると思います。再置換手術後も、痛みがとれた方はもちろんこと、痛みがなかった方でも「自分の骨が救われた」と安心されるなど精神的な満足度は高いようです。左右の脚の長さを補正することもあり、そのような場合は、「よりしっかりした」と喜ばれますね。

股関節に関しては、たとえば骨盤側の屋根が浅い臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼など、子どものときから問題がみられるケースが多いです。このように小さいときに将来を予測できるのであれば、肥満しないようにし、歩く距離が極端に多いなど股関節に負担がかかる仕事は避けたほうがいいでしょう。ともあれ、痛みを覚えたら、まず整形外科を受診してください。初回の人工関節置換術をしたら、その後の定期検診も忘れずに。レントゲンをズラッと並べると、骨とのすきまができていく経緯などがよくわかります。いつまでも元気に歩けるように、受診と定期検診で早期発見と適切な治療を受けていただきたいですね。


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