専門医インタビュー
愛知県
プロフィールを見る
ポリエチレン製の人工軟骨
人工膝関節置換術は、文字通り、傷んでしまった自分の膝関節を人工の膝関節に置き換えるという手術です。膝関節をそっくり人工物に入れ替える全置換術と部分的に入れ替える部分置換術があり、痛みを感じている部分を削り、すり減ってしまった軟骨は、ポリエチレン製の人工物に入れ替えますので、痛みの改善と膝関節のスムーズな動きが期待できる手術といえます。
人工膝関節置換術は、患者さんが抱えている膝の痛みや日常生活動作を改善するという点でメリットの大きな手術といえる一方で、リスクもあります。主なリスクとしては、一度入れた人工膝関節をもう一度入れ直す「再置換」でしょう。現在、人工膝関節自体は、技術面の革新によって非常に耐久性が向上しています。以前は、ポリエチレン製の人工軟骨が摩耗しやすく、それによって膝関節周囲の骨に悪影響を与え、再置換が必要になることがありました。今は、ポリエチレンの材質が非常に良くなり、人工膝関節が原因で再置換が必要になることはほとんどなくなっていると言っていいと思います。その他に感染を起こしたり、術後に転倒などの事故や病気で骨折してしまった場合は、再置換が必要になることがあります。感染については、手術中の感染症対策として衛生管理を徹底して行い、患部に細菌が入り込むことのないよう術中管理をしっかり行っています。併せて、患者さんには、術後、肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受けたり、誤嚥性肺炎などを起こしたりしないよう感染症対策をしっかり行うようにお願いしています。また、特に骨粗しょう症は骨がもろくなる大きな原因の一つですから、手術前に骨密度を測定し、骨粗しょう症がある場合は、術後、必ず骨粗しょう症の治療も併せて行うようにして、骨折を未然に防ぐ努力をしています。
人工膝関節置換術後の
レントゲン
術後2日目くらいから本格的に筋力トレーニングや膝を自動で曲げ伸ばしする器械などを使ってリハビリを進めていきます。だいたい3週間を目安とし、自宅で階段の登り降りや段差を超えることが問題なくできるという自信がつけば退院となります。もう少しリハビリが必要な場合は、回復期リハビリ病院に転院していただき、自信をつけてから自宅に戻っていただくこともあります。
手術への抵抗感が強い方の中には、「手術後の痛み」を心配されている人も少なくありませんが、それも、今は、神経ブロックや硬膜外麻酔などで手術後の痛みのコントロールはかなりできるようになっています。
変性してしまった軟骨や骨は、残念なことにもう元に戻ることはありません。がまんにがまんを重ねて、動けなくなってしまってから手術をしても、低下してしまった筋力を取り戻すのにかなり時間がかかってしまうことがあります。
あまりにも膝関節の状態が悪くなってしまうと、たとえ人工膝関節の手術をしてもあまり改善しないこともあるのです。膝の痛みなどの自覚症状を感じたら、一度整形外科を受診してレントゲンのチェックを受け、自分の状態を確認するのは、大切なことだと思います。膝が痛いからといって大事を取りすぎて、旅行やスポーツなど自分の好きなことを諦めてしまうのはもったいないと思います。整形外科の主治医の先生のもとで、自分の膝の状態を把握しながら必要な治療を受け、自分の好きなことをやり尽くしていただきたい。その結果、膝が悪くなってしまったら、最終手段として人工膝関節にするという選択肢があるので、そこで考えてみたらいいと思います。私の患者さんでも、人工膝関節にして、最初は車椅子だったのに自力で歩けるようになった方とか、膝が痛くて諦めていた趣味を再びできるようになって人生を満喫しているという方がおられます。手術が怖いという気持ちはよくわかりますが、健康で、日常生活に不自由のない状態を一日でも長く維持するための手段として、一歩前に足を踏み出していただきたいと思います。
ページの先頭へもどる
PageTop