専門医インタビュー
福岡県
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来院当初から変形や痛みの激しい方、しばらく保存療法を行っても改善が難しい場合は手術を検討します。手術のタイミングは患者さんそれぞれですが、「夜も眠れないほど痛くてつらい」「この痛みを抱えていつまで生き続けないといけないの?」といった気持ちになったら、手術を考えても良いと思います。手術に踏み切るタイミングは患者さんの希望を優先して決めています。
人工膝関節単顆置換術
手術には3種類あります。「骨切り術」、「人工膝関節単顆置換術」、そして、「人工膝関節全置換術」です。骨切り術は、関節近くの骨を切って矯正するという方法で、自分の関節を残すことができるのがメリットです。若年層や日常的にスポーツを行っているなど、活動性が高い方向けの方法といえます。人工関節置換術は、文字どおり、悪くなった膝関節を人工的に作られた関節に置き換えるというものです。単顆置換術は、悪くなっている部分(片側)だけを置き換えるもので、自分の関節や靭帯が残るなど全置換に比べて負担が少なく、早期の回復や社会復帰が見込めるものです。いずれにしても人工膝関節の品質をはじめ、その技術は飛躍的に向上しています。
人工膝関節全置換術
後のレントゲン
患者さんが人工膝関節置換の術後に求めるものは、「長期成績」と「満足度」の2つと考えられています。長期成績は、「どれくらい安定しているか」ということ、満足度は「機能が回復しているか・痛みが取れているか・術前の期待どおりか」ということになります。長期成績については、人工膝関節のパーツの一つであるポリエチレンの進化によって、かつては10年程度と言われていた耐用年数が、現在は20~30年と劇的に延びています。しかし、満足度については、10~15%の方が「期待していたほど満足していない」という結果が出ており、満足度の低い方には、「年齢が低い」「女性」「炎症の残存」などといった疫学データが確認されています。これらの要因を補うために、医療の現場ではより精密な手技や人工膝関節のデザインなどが求められてきました。それらは現在も継続して開発が続けられ、さらなる進歩が期待されています。
ナビゲーションシステムの一例
まず、人工膝関節を長持ちさせるためには、膝の部分だけでなく足(下肢)全体の形を整え綺麗にする(下肢のアライメントを調える)ことが重要になります。素材のポリエチレンの耐久性がどんなに高くなっても、人工膝関節の入れ方が悪かったり、土台となる足のアライメントが悪いと、早期に破損や摩耗してしまうのです。そのため、術前にCTを撮り、それを三次元画像にして人工膝関節の適切な設置位置を割り出していきます。これによって、精密なシミュレーションを行うことができます。また、ナビゲーションシステムを用いることも可能で、術中にリアルタイムで足の形を見ながら術前に計画した位置に正確に設置できるよう微調整していきます。車のナビのように画面で位置を教えてくれるため、ミリ単位の精巧な調整ができ、目標とする位置に設置することが可能です。設置する際の軟部組織バランスも重要です。膝にテンション(張力)をかけて、伸展および屈曲時の膝の外側の不安定性や関節間隙の距離を見ていきます。バランサーと呼ばれる内側と外側のバランスを数値化する機器を使用することで、人工膝関節を入れた時の膝の軟部組織バランスを細かく確認することができます。ちなみに、日本人にはO脚が多く、膝関節の内側が硬く、外側がゆるいという傾向があります。膝屈曲に伴い、内側の関節を中心として外側関節の接触点が後方に移動し、それが関節機能の維持に貢献するため、下肢アライメントを整えると同時に内側の安定性を損なわないように人工膝関節を入れます。このように、下肢アライメントを整え、膝関節の不安定性を取り除き、バランスは内側が安定した膝を作ることが目標となります。
手術にあたっては、麻酔医の協力のもと疼痛管理を行います。全身麻酔、および坐骨神経と大腿神経に対する神経ブロック注射を行います。これにより、手術当日(手術直後)も「痛みを感じない」という方が少なくありません。大腿神経に対しては、翌日まで神経ブロックのチューブを入れているため、2日目も痛みを軽減させることが可能で、スムーズに術後リハビリの導入が行えます。
両膝に変形性膝関節症を抱えている方の場合は、片足ずつ最低3ヶ月の期間を置いて手術を行います。痛みの強い足から手術をしますが、その術後にもう片方の足の負荷が軽減され、痛みが弱まるというケースもあります。それによって「もう片方は手術はしなくてもいい」と感じる方もいれば、手術の効果を実感し「残りの片足も早く手術したい!」と望まれる方もいます。
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