専門医インタビュー
車椅子への乗り移り
手術翌日はまだ血圧が低かったり、全身麻酔の影響で気持ち悪さを感じる方が多くいます。そのため無理をせず、術後数日間はベッドで休んでもらい徐々にリハビリを進めていきます。
最初はベッドから車椅子への移乗訓練から始め、リハビリ室に移動して道具につかまって立つ練習を進めます。その後、平行棒や歩行器を使った歩行訓練を経て、一本杖での歩行、階段の昇り降りへとステップアップしていきます。なお、術後の痛みについて、痛み止めは服用してもらいますが、たくさん薬を使って痛みを完全に取ることは避けます。術後すぐの服薬は、普段以上に胃に負担をかける点で注意が必要です。
リハビリに取り組む過程で少しずつ引いていく痛みは、患者さんにとっても私たち医師にとっても、回復の大切なバロメーターです。患者さんのペースに合わせてリハビリを行いますので、退院までの日数はそれぞれ幅があります。決して焦らず気楽な気持ちで、マイペ―スに臨んでください。
日常生活で特別に大きな制限はなく、せっかく手術をして良くなったのですから、今までできなかったことをいろいろ楽しんでほしいと思います。ただし、脱臼しやすい姿勢は避けるようにしてください。後方アプローチの場合は、股関節を強く曲げたり、膝が内側に入るような動きに注意してください。靴下を履くとき、爪を切るときなど、普段の癖でついそうした姿勢を取らないよう、手術前やリハビリを通して繰り返しお伝えしています。
スポーツは、自分のペースでゆっくり頑張れるジョギングやゴルフ、テニス、水泳などは問題なく楽しめます。飛んだり跳ねたり、接触するような激しいスポーツは避けたほうがよく、バスケットボールやサッカー、バレーボール、ラグビーなどは難しいと思います。
転倒による骨折には気をつけてください。大腿骨にはステムが入っているので骨量が少なく、骨折すると通常の治療では対応できないことがあります。骨折を防ぐため、骨粗しょう症の疑いがある患者さんは、人工股関節の手術にあわせて骨粗しょう症の薬も処方し、経過を見ています。骨粗しょう症はもともと女性に多い病気ですので、普段から牛乳や小魚などカルシウムが多いものをしっかり取り、適度な運動をして予防に努めましょう。
人工股関節の手術は、受ければ痛みがとれることが広く認知されてきています。術後はいきいきした表情で外来に訪れる患者さんが多く、「よくなるとは思っていましたが、想像以上でした」「今では股関節の存在を忘れて暮らしています」など聞くと、術者としてもありがたく、嬉しい限りです。
人工股関節を長く安心して使っていくためには、術後も定期的な検診が必要であり、主治医とは長い付き合いになります。相性もありますので、ご自身が信頼できる主治医探しには手間を惜しまないでほしいと思います。
納得のいかないまま手術に踏み切る必要は全くなく、悩む気持ちがあるのであれば、それを受け止めて相談に乗ってくれる医師を見つけてください。主治医との信頼関係がしっかり築けていれば、どんな困難があっても乗り越えていけるはずです。
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