専門医インタビュー
福井県
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本来、身体に備わっている免疫は、自分の身体を守るために、身体の中に細菌やウィルスが入ってきた時に攻撃し排除する働きがあります。しかし、免疫に異常が生じると、自分の身体を異物だと誤り攻撃し、自分の身体を壊し始めます。関節リウマチは、40~60歳代の女性に発病することが多く、手足の小さい関節の痛みや腫れから発症していくのが特徴です。はっきりした原因は分かっていないのですが、遺伝的因子や喫煙、歯周病などの環境因子など複数の因子が絡み合っていると言われています。
たばこを吸っている方は、気管支や気道に慢性の炎症を起こしている状態であり、歯周病は口の中に炎症が起こっている状態です。これら慢性の炎症が、関節リウマチ発症の後押しをしているのではないかとも言われています。関節リウマチもかつては、何十年もかけて関節破壊が進んでいくと言われていました。しかし、実は発症してから2年くらいまでで一気に関節破壊が進み、その後は緩やかに進行することが分かってきました。そのためwindow
of opportunity(治療の機会の窓)を逃さず、発症してからなるべく早期にしっかりとリウマチの治療をすることで、症状を改善させ、関節が破壊されるのを予防できるようになってきました。
関節破壊の進行度
関節リウマチ
高齢の方に、突然関節リウマチが発症することが近年、多くみられるようになっています。先ほど述べた関節リウマチと異なり、膝や肩、股関節といった大きな関節に急に強い疼痛や腫脹が生じて発症することが特徴です。高齢の方の膝が痛む原因は、圧倒的に変形性膝関節症が多く、レントゲン検査を行うと多くの方にその所見があります。そのため、膝関節の痛みで受診され、その原因が実は高齢発症関節リウマチであっても変形性膝関節症と診断されている方もおられます。
高齢発症リウマチではリウマチのマーカーが陰性であることも多く、診断をつけるのが難しいのです。しかし、高齢発症リウマチの方では血液検査を行うと多くの場合、変形性膝関節症では上昇しないCRPという炎症の指標となる検査値が上昇しており、身体の中で炎症が起きていることが分かります。また、関節液は変形性膝関節症の場合、黄色透明な色をしているのですが、関節リウマチの方は関節液の中に白血球が混じり、ウミのように白く濁っているのが特徴です。さらに、患者さんが自分から訴えられなくても全身の関節を触ると肘や肩などに腫れや痛みがあり、その部分のエコーやMRI検査をすると、関節炎が起きていることが確認できる場合があります。CRPが上がっている場合、膝だけではなく、他の関節にも関節炎の所見が隠れていないか、詳細に診察することが大切です。
関節リウマチの治療においてメトトレキサートや生物学的製剤などの登場によって、これまでよりも強力な効果が期待できるようになりました。しかし、これらの薬物治療を行い、治療がうまくいっていても、膝に痛みや水が溜まってくることがあります。多くの場合は使用している薬剤の効果が薄れてきたことによる関節リウマチの再燃であり、この場合には違う薬剤に変更したり、新たな薬剤を追加したりすることで対処します。しかし、特に高齢発症リウマチでは、併せて変形性膝関節症をお持ちの患者さんも多くおられ、痛みや水が溜まる原因は、関節リウマチの再燃によるものとは限らず、変形性関節症が悪化したことによる場合もしばしば見受けられます。このような患者さんに、関節リウマチの治療を強化しても当然、症状の改善は得られませんし、新たに変形性関節症の治療を行うことが必要になります。高齢発症リウマチの患者さんでは、症状の再発が見られた場合には、変形性関節症による症状も念頭に置いて治療に当たることが非常に重要と考えます。
これまで関節リウマチの患者さんには、膝周囲骨切り術の適応はなく、人工膝関節置換術が適応とされていました。しかし、現在、関節リウマチの治療は目覚ましい発展により、炎症を完全にコントロールし、関節破壊の進行を予防できる時代になっています。関節リウマチが薬剤によって良好にコントロールできていても、まだ膝が痛いという場合には、その症状を詳細に検討し、関節リウマチの炎症に伴うものでなく関節変形に伴うものであれば、関節リウマチの患者さんであっても膝周囲骨切り術は有用な膝関節治療の選択肢であると考えています。
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