専門医インタビュー
「痛みのコントロール」は患者さんの術後成績に影響するため、とても重要です。手術は痛くないか?手術後も痛みが続くのでは?と不安になる方もいらっしゃいます。近年では薬や麻酔の使い方が工夫され、手術前の神経ブロック注射、手術中の関節内カクテル注射や、手術後の各種飲み薬など、さまざまな方法が可能です。また、痛みの感じ方には個人差があるとご紹介しましたが、痛みを過敏に感じやすい方に対しては、これらの方法を組み合わせて行うことも可能です。
さらに、手術でひざを切開する際に、切る位置や向きを工夫することもできます。縦方向に切開を行うと、ひざの前側を走る神経を損傷しやすく、手術後ひざをついた時に神経の部分が当たって、痛みを生じることがあります。ひざの横方向に切開すると神経の損傷を避けることができ、痛みを防げる可能性が高まります。手術後しばらくすると改善される場合も多いのですが、早期回復を目指すためにも大切な対策と考えています。
「徹底した感染症対策」がとても重要です。感染症は手術における最大の合併症です。創部から細菌が入り人工関節に付着する場合(外因性)、創以外の他の部位から入った細菌が、血液に乗って人工関節に付着するケース(内因性)があります。発生頻度は1% 程度と低いですが、万が一発生すると再手術が必要となります。そうならないようにしっかり対策を行う必要があります。
外因性感染の対策として、手術室、医師が着る手術着、使用する手術器具などを清潔な状態にして、手術を行います。内因性感染に対しては、手術の前後に患者さん自身が、鼻、口、足などに菌をできるだけ保菌しないよう、ケアを行っていただくことが大切です。抗生剤が効かない耐性菌の保菌や歯周病、水虫といった疾患には要注意です。全身の清潔に気を配るようにしましょう。
手術後は痛みや傷口の状態にもよりますが、早い段階でリハビリを開始します。早期に動くことで、合併症の一つである血栓症(けっせんしょう)の予防にもなります。歩行や階段昇降の練習を行い、杖をついて歩けるレベルになれば退院可能です。入院期間は全置換術だと片ひざで2~3週間、両ひざで3~4週間くらいが一般的です。部分置換術だともう少し短い傾向です。
退院後2~3か月は、通院リハビリで筋力と可動域の改善を目指します。念のため杖を使うなど、転倒には十分に注意してください。ウォーキングなどの軽い運動であれば問題ありませんが、ひざに強い負担のかかるスポーツなどは控えていただきます。やってもよいか分からないことがあれば、気軽に医師に相談して下さい。また定期的に検診を受けて、人工関節に問題がないかチェックしてもらいましょう。
痛みをそのままにしていると、変形が悪化してさらに動けなくなり、将来的に日常生活に支障が出てしまう可能性があることをご紹介しました。高齢化社会が進み、高齢で元気が方も多くみられます。一方でひざの痛みに悩む高齢の方も非常に多いです。痛みを我慢しすぎないで、まずはご自身がどのような状態でいたいかを考え、そのためにどのような治療があるのか、医師のアドバイスを受けるとよいと思います。早い段階で専門医に相談し、ご自身に合った治療で改善を目指しましょう。
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