専門医インタビュー
奈良県
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患者さん一人ひとりにあった手術を行うため、術前にレントゲンを使用して綿密な計画を立てます
納得されるまでよく説明することですね。人工膝関節置換術というと、関節を全部取り出して、新たな関節を入れるというイメージを持つ人が多いのですが、実際は、骨の悪くなった部分を薄く削り取り、そこに金属でできたインプラントをかぶせてあげるので、「歯型を取って金属をかぶせる虫歯の治療と同じですよ」と説明するようにしています。大抵の人は虫歯の治療を経験していますので、具体的なイメージも湧き、恐怖心の軽減にもつながっているようです。
また手術前には、患者さんの膝の状態をコンピュータに取り込み、一人ひとりにあった人工関節の大きさ、設置位置、設置角度、骨を削る量などをシミュレーションし、それらを見せながら、患者さんにこれから行う手術の具体的な説明を行っています。手術には、頻度が少ないとはいえ、合併症のリスクもありますから、不安が全くなくなることはないと思いますが、具体的な術前計画を説明することで、安心感にはつながっていると思います。
人工膝関節置換後のX線
人工関節の耐用年数は体重や活動レベル、身体条件など、患者さん個人によって違いますが、一般的には約15年~20年といわれています。ただし、人工関節に過度な負荷や衝撃がかかることによって、人工関節の緩み、破損、摩耗などの合併症が発生した場合には、それよりも短い期間で入れ替え手術が必要となる場合もあります。そのために「60代ではまだ早い」と手術を躊躇される人もいますが、まだまだ若い60代を痛みに耐えながら過ごすのは余りにももったいないと思います。たとえ再手術が必要になった場合でも技術は進歩していますし、現在の人工関節は、材質もデザインもどんどん改良されていますから、今後の耐用年数がもっと長くなり、早めに手術をしても再手術なしで人生を全うできる可能性は十分にあると思っています。
後十字靱帯を温存するCR型(左)と後十字靱帯を切除するPS型(右)。できる限り靭帯を温存する方針のため、当院では可能なかぎりCR型を選択しています
皮膚の切開(侵襲)の程度をできるだけ小さくし、患者さんの体にかかる負担を少しでも軽くしようという手法を
最小侵襲術あるいは低侵襲術(MIS)といい、当院では、ほとんどの場合、このMISで手術を行っています。従来の手術と比べ、患者さんの負担が少ないので、術後の立ち上がりが早く、リハビリがとてもスムーズに行えるのが特徴です。執刀には、通常の人工膝関節置換術よりも高度な技術が必要ですが、傷口も小さく、関節周辺の筋肉や神経をほとんど傷つけないため、早期の歩行、社会復帰が可能です。早い人では、2週間での退院もあります。また、関節の症状が軽い人には、さらに侵襲の小さい、大腿四頭筋温存型のMISも行えるようになりました。この手術は、膝を伸ばすために大切な筋肉である大腿四頭筋を一切傷つけないため、さらなる術後痛の軽減と、早期社会復帰を実現しています。手術時間は約60分~100分程度で、術後から退院までの回復が飛躍的に早く、1週間後には階段の昇り降りを始める人もいます。
なお、人工膝関節置換術で損傷した膝関節を取り除く際、手術が簡単なこともあり、前後の靭帯を2本とも切除することが多いのですが、当院では、後十字靭帯をできるだけ温存するようにしています。膝関節には、前後方向への屈曲・伸展だけでなく、左右への回旋などいろいろな方向への動きがありますから、それらの動きを術後も残そうと思うと、やはり靭帯があるのとないのとでは、膝の安定性が全然違ってきます。
両側手術後2週目の写真。切開は7~10cm程度
どんなに安全性の高い手術でもノーリスクではありませんから、麻酔・手術が1回で済むということは、両側同時手術の大きなメリットだと考えています。手術時間や出血は2倍になりますが、入院期間は片側手術とほとんど変わらず、2週間~4週間で済みます。侵襲の小さいMIS手術であれば、出血量も少なく回復も早いので、高齢者でも十分に対応できます。当院で実施した両側同時手術の最高齢は93歳です。「グラウンドゴルフが生きがい。できないのだったら死んだほうがまし!」とおっしゃる、自分の人生に前向きな患者さんでしたから、リハビリにも意欲的に取り組まれ、現在はグラウンドゴルフを満喫されています。
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