専門医インタビュー
石川県
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変形性股関節症の最終的な治療法は、人工股関節置換術です。痛みが強くなってくると股関節が硬くなり、歩き方のバランスが崩れてしまいます。片方の脚を引きずるような歩き方がはた目にも明らかになってきた時、手術を考えるタイミングだといえるでしょう。また人工股関節置換術は、内科的な疾患が相当ひどい状態でない限りは行うことが可能です。持病があっても、内科医や麻酔科医と協力して、疾患の状態をコントロールしながら手術を行います。高齢でも本人が望まれれば手術を考え、慎重に準備します。現在使用している人工股関節は15年以上持つといわれていますが、耐用年数はその人の活動性や生活の仕方によっても大きく変わってきます。
年齢が比較的若い場合は、活動性も高いため、普通よりも人工関節の摩耗が早くなる可能性も高いといえるでしょう。このように、人工関節の寿命とその方の社会的な活動量、また「スポーツもどんどんやりたい」などの本人の希望などを加味して、十分に相談をしながら治療方針を決めていくことになります。以前のように「60歳、70歳までは我慢して、人工関節はそれから」ということは、どの病院でもいわなくなりました。手術を受けるにあたっての年齢制限は、基本的にないと思っています。なお、いくら家族が勧めていても、本人が希望しない限りは手術を行うことはありません。
コンピュータによる3次元的な術前計画
人工股関節は、大腿骨側のインプラントである「ステム」と「骨頭(ボール)」、寛骨臼側のインプラントである「カップ」とその中にはめ込む「人工軟骨(ライナー)」が組み合わさったものです。インプラントの材質は合金ですが、ライナーは多くが医療用の特殊なポリエチレンでできています。人工股関節は、患者さんの骨の形態や大きさ、さらには骨の質に合わせて適正にフィットしたものを選んで入れますが、まずは事前の手術計画がポイントになります。手術が決まったら、CTを撮って骨の形や状態を確認し、その上でコンピュータを使用して3次元的な術前計画を行います。その患者さんに合ったインプラントの種類と大きさ、骨をどの場所で切り、どの位置からどこまで削り、そこにどういう角度でインプラントを設置すればいいかなど、細かいところまで計画を立て、コンピュータ上で手術のシミュレーションを行います。特に関節の変形が強く手術が難しい場合でも、的確なプランニングと手術が可能になります。
人工股関節置換後のX線(両脚)
手術には、最小侵襲手術と呼ばれている手術方法、MIS(エム・アイ・エス)を取り入れています。MISには股関節の前から手術を行う「前方進入法」と「前外側進入法」という方法があり、従来の後ろから行う「後方進入法」とは異なり、傷口が小さいというだけではなく、筋肉と筋肉の間から筋肉や組織を極力切らないで、体の奥深くにある股関節に達する方法です。筋肉を切らないため術後の筋力の回復が早く、また脱臼も生じにくいといった点が特徴です。以前は前方進入法でMISを行っていましたが、現在は前外側進入法で行っています。これらは皮膚を切る位置が若干異なり、特に前外側進入法は大腿骨に近いため、様々な形や大きさのある大腿骨インプラントを挿入しやすいといった利点があります。股関節の前から手術を行う前外側進入法や前方進入法は、いずれも仰向けで手術を行うため、右の股関節も左の股関節も同時に手術をすることができます。両脚ともに股関節の状態が悪い人に両側同時に行うメリットは、手術や麻酔が一回で済むだけではなく、術後に両脚の長さを揃えることができるということもあります。リハビリや入院期間は、同時に手術を行っても片方だけの場合とそんなに変わりません。特に、比較的若い患者さんは長い期間かけてゆっくり入院治療をしている暇がありませんから、1回の手術で、短期間で社会復帰できる方法を望まれる方が多いですね。両方の股関節の痛みが取れてスムーズに動かせるようになれば、生活は一変します。
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