専門医インタビュー
愛知県
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人工膝関節の一例。インプラント表面には細かい凹凸が加工されており、この表面に骨が固着することで、骨セメントを使わずに人工関節を固定します
保存療法で改善がみられない場合は、人工膝関節置換術を検討します。人工膝関節置換術は、損傷した膝関節の表面を削り取り、金属やポリエチレンなどでできたインプラントに取り換える手術です。手術の流れとしては、まず術前の準備として、筋力がどのくらいあるか、太ももの筋肉量や膝の曲がり具合のチェックを行います。術後に筋肉量が落ちて痛みが出る人もいますので、膝の曲がりの角度と筋肉量は必ず術前に測定します。また、内科的に問題がないかをチェックするため、血液検査や心臓の状態などを確認し手術に備えます。人工関節は金属でできているため、金属アレルギーのある人は事前に医師に伝えてください。手術時間は、片膝の場合で約1時間、両膝で2時間20分くらいです。人工膝関節置換術は手術手技が確立されている手術であり、日本全国で年間8万件も行われているなど、もはやポピュラーな手術といえるでしょう。感染や手術時の麻酔のリスクも他の手術に比べて少ないと思います。
手術をすることで、膝の痛みは抜群に取れます。脚が真っ直ぐになり、靭帯のバランスも変わって今まで使っていなかった筋肉を使うようになったため、術後数カ月は痛みが残る人も中にはいますが、この痛みは術後のリハビリで徐々に取れていきます。なお、人工関節は110〜120度くらいは曲がるように設定してありますが、しゃがみ込むような姿勢は関節への負荷が大きくなり過ぎるため、避ける必要があります。正座も難しいでしょう。しかし、これまで悩んでいた痛みはなくなりますし、洋式の生活スタイルをしてもらえば、日常生活に不自由することはありません。また人工膝関節置換術を行うと、変形してO脚だった脚も真っ直ぐになります。退院後、細いズボンやスカートを履いて外出されている患者さんもたくさんいますよ。手術の傷口は15~18センチくらいです。膝にまっすぐ傷口ができますが、ストッキングをはけば目立たないと思います。人工膝関節置換術は、患者さんの健康寿命を延ばし、生活の質を高めるための手術だと考えています。
手術室
手術年齢としては、70代後半から80代前半の人が一番多いですね。下は、60歳前後が多い印象です。仕事も一段落し「これから!」というときに、膝が痛くて思うように動けないといって受診されます。以前は、耐久性の点から手術年齢は65歳以上とされていましたが、今や人工関節の耐久性は30年成績で70%近くあります。つまり、10人のうち7人は、60代で手術をすれば90歳過ぎまで入れっぱなしで大丈夫、70代で手術すれば天寿を全うするまで入れ替える必要はない、ということです。手術年齢の上限は特に設けてはいません。心身ともに健康でリハビリを行えるだけの体力と気力があれば、誰でも受けることが可能です。
人工膝関節置換術後のX線 正面(左)側面(右)
当院で手術をした最高齢の人は93歳でしたが、術後ちゃんと自分の脚で歩いて帰られました。いくつになっても自分の脚で歩きたいですよね。 もちろん中には、「いまさら手術しても」という人もいます。また、手術をしたら寝たきりになってしまうのではと、心配される人は多いですね。「歩けなくなったら困るのです」とおっしゃるのですが、「歩けるようになるための手術なのですよ」と話しています。とはいえ、医師がいくら説明しても伝わらない部分はありますので、同じ病気で手術をした患者さんたちから体験談を聞く会を、年4回定期的に行っています。「この年齢で今さら手術なんて、と思ったこともあったけど、手術したら痛みがなくなって、日常生活も楽になって本当によかった」など、患者さんの生の声を聞くことができます。それによって、悩んでいた患者さんが安心して手術を受けることも多いですね。
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