専門医インタビュー
多くの方が加齢とともに抱える悩みである、「膝の痛み」。変形性膝関節症は慢性的な痛みのため、立ち座りがつらくなり、やがて日常生活に支障を感じるようになります。症状には段階があり、進行度合いに応じて治療法が存在します。中でも人工膝関節置換術は、膝関節の除痛と機能回復を目的とした手術で、日本でも年間約7万件行われている一般的な手術です。今回は、特に高齢の女性に多い疾患である変形性膝関節症の原因と主な治療法である人工膝関節置換術について、えにわ病院の理事長である木村正一先生にお話をうかがいました。
膝の関節というのは、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)が滑るようにして動きます。これは骨と骨とが直接ぶつかっているのではなく、骨の表面に「軟骨」というものが被っており、その軟骨の表面同士が擦れ合っているのです。この構造は、すべての関節に当てはまります。ちなみに、軟骨の厚さは大腿骨で約7mm、脛骨で約5mmあります。軟骨は、とてもツルツルとしています。氷の上に氷を滑らせるよりも遥かに滑るといわれており、摩擦が非常に少ないのです。また、軟骨は神経細胞がありませんので、痛みを感じません。つまり、関節は軟骨があるから痛くないのです。
変形性膝関節症は、この軟骨が駄目になってしまう病気です。例えば、若い人の軟骨を見ると、誰も踏み入れていない雪の平原のような、きれいで真っ白な平らの状態です。反対に軟骨が痛んでくると、異常に柔らかくなったり、毛羽立ってきたりして、薄くなってはげていきます。それがどんどん削れていって、最後は無くなってしまいます。軟骨が無くなると、骨が見えて直接骨同士がぶつかることになり、とても痛くなります。これは、変形性膝関節症の末期の状態です。このように、段々と軟骨が変成して痛んでくることによって、関節が痛くなっていくのが変形性膝関節症です。
軟骨は手でガリガリとすると削れるぐらいの弱いものですが、通常は私たちが60年生きても擦り減ることはありません。それが減るということは、何らかの原因があるということです。考えられる原因の一つとして、「若い時の怪我」があります。外傷性の変形性膝関節症といわれていますが、軟骨と軟骨の間にある半月板が痛むと、不自然な加重がかかり、軟骨が痛んでしまいます。
また、最も多い原因の一つとして、「体重」があげられます。膝の大きさは、体重の重い/軽いに関係なく、皆だいたい同じ大きさです。膝にかかる体重は、普段の生活を行っている場合でも通常の2~3倍、階段の昇り降りで3~4倍、ジャンプをすると5倍以上の加重になりますので、100kgもあるような体重が重い人は、余計に軟骨が痛みやすくなります。その他の原因としては、「加齢」が考えられます。ただ、同じ年齢や体重でも変形性膝関節症になる人とならない人がおり、その理由はまだ医学的に分かってはいません。なお、男女別では圧倒的に女性が多い状況です。
変形性膝関節症は、日本と欧米で違いがあります。日本人は、生活様式が正座や胡坐など深く膝を曲げる生活が多い一方で、欧米人はベッドやイスでの生活ですから、深く曲げる動作を必要としていないため、症状も異なっています。一般的に日本人にはO脚変形が多く、欧米人はX脚変形が多いといわれています。実は、変形性膝関節症の9割以上が、膝の内側からの加重が原因です。普段の生活から、7割の体重が膝の内側にかかっているともいわれおり、内側の軟骨が擦り減ると、さらに内側に体重がかかりやすくなり、その結果、余計O脚になるという悪循環に陥りがちです。なお、日本と欧米では、病気への考え方も異なっており、欧米人はとにかく「痛みを早く取ってくれ!」という考えの人が多いためか、日本人よりもすぐに外科的な治療へ進む人が多い傾向があります。
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