コラム33 人工膝関節置換術後のひざまずき動作
室内で靴を脱ぐ本邦の生活様式において、床生活は、ごく身近なものです。
床は洗濯物を畳む、アイロンをかける、といった家事を行う場所であり、また子供や孫を遊ばせ寝かせる場所でもあるからです。「ひざまずき」は床上での立ち座りに伴って自然と行う動作であり、知らず知らずのうちに毎日何十回と繰り返しています。
このような、膝に負担のかかる生活習慣が影響しているためか、日本では40歳以上の約43%は膝に痛みを抱え、また中等度以上の痛みがあり変形膝関節症が疑われる人は2350万人以上に及ぶと言われています(※1)。
変形性膝関節症の症状が進行した際、治療法のひとつに人工膝関節置換術があります。人工膝関節置換術を受けた人の96%は「総合的に受けてよかった」と回答し、そのうち約42%の人は「もっと早く受けていればよかった」と回答しています(※2)。これらの報告から、手術によって救われた人の多いことが分かります。
ところが、手術に満足しても、床生活に欠かせない「ひざまずき動作」を避けてしまうことで、手術後の生活に不自由さを感じている人が少なくないことも近年わかってきました。人工膝関節置換術によって「ひざまずき動作」が行えない、ということはあるのでしょうか。実は、人工膝関節置換術後6か月以上の定期健診時点で92%以上の人はひざまずき動作が出来るのにも関わらず、実際に日常的にひざを床についている人は21%に留まったという調査結果があります。ひざを床につかない、もっとも多い理由は意外にも痛みやしびれなどの肉体的要因ではなく、不安感や恐怖感などの心理的要因でした(※3)。
人工膝関節置換術は痛みを改善し、生活の質(QOL)を向上させることを目的としています。 床上での立ち座り時には、専用のサポート器具を使用する、クッション等のやわらかいものを利用する、といった工夫をすることで心理的な不安の解消や痛みを軽減できる可能性があります。